【千の提言#7】あえて「紙」を戦略的に活用!健康を浸透させるための普及活動(キヤノンマーケティングジャパン)

「健康第一主義」を名実ともに実践するキヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下キヤノンMJ)。初代社長が医師だった会社らしく、どこまでもシステマティックに、どこまでも徹底的に行う健康管理活動は、どの企業にも参考になるはずです。後半となる今回は、キヤノンMJならではの仕組みを通して、自社内での健康経営の普及から外部への発信方法までお伝えしていきます。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
1968年キヤノン販売として設立。2006年キヤノンマーケティングジャパンに社名変更。グローバルキヤノングループの中で、日本国内でのマーケティング活動やソリューション提案を行う。2025年ビジョン「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」を掲げ、キヤノン製品とITソリューションを組み合わせることで社会課題の解決に取り組む。2024年に「未来マーケティング企業」を宣言し、キヤノンMJグループパーパス「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」を制定。単体従業員数約4,500名、グループ従業員数約1万6,000人。「健康経営銘柄2024」に選定(通算3度目)。「健康経営優良法人ホワイト500」は8年連続で取得している。
健康経営優良法人 受賞・認定歴
2017年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2018年:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定
2019年:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定
2020年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2021年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2022年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2023年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2024年:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定

左
佐野 淳(さの・じゅん)
総務・人事本部
グループ安全衛生部 部長
中央
木下 あけみ(きのした・あけみ)
総務・人事本部
グループ安全衛生部 品川健康支援室 主管 保健師
右
猪股 紗季(いのまた・さき)
総務・人事本部
グループ安全衛生部 品川健康支援室 保健師
ビジネスにも「健康」を浸透させるあえての紙戦略
──ここまでの施策では、すべてをペーパーレス化していくことで、省力化を図りながら推進力に変えていくという内容が多かったですね。やはりシステム化・ペーパーレス化が基本なのでしょうか?
木下あけみ様:そうですね、健康診断周りなどに関しては、これまでお話しした通り、システム化・ペーパーレス化を基本に進めています。しかし、すべての施策でペーパーレスを進めているわけではないのです。その最たるものとして、「Myヘルシーアクション」という取り組みがあります。従業員は、全国どこでも執務室や事務所に入館するためにIDカードを所持しています。このカードのサイズにピッタリ合う形で、健康意識を高められるカードを作っているのです。IDカードの裏側にちょうど入る大きさなので、邪魔にもならず、いつでも見返せるようにという思いがあります。

木下あけみ様:このカードは、本社従業員だけでなく、グループ会社従業員1万6,000人にも年頭に配布しています。このカードに年始のタイミングで自分が1年間取り組みたい健康施策を書き込み、健康宣言として使ってもらっています。
──全員に書いてもらっているんですか。ここだけあえてのアナログなのですね。
木下あけみ様:最近はウェブ化という話もチラホラ出ているのですが、やはりこうやって紙で、すぐ見えるところにあるというのが大きい意味を持つと思います。
2020年以前から各自ヘルシーアクションを立てて取り組むことを推進していたのですが、実際の取り組み状況がわかりにくく、その活動自体が組織的な取り組みになっていきにくいというものがありました。これを解決するためにつくったのがこのMyヘルシーアクションカードなのです。

これが普段から見えるところにあることで意識もしますし、お客様へのアピールにも繋がります。同僚とも見せあうことで、「私はこんなことを、1年かけて取り組んでいきますよ」という宣言にもなりますし、これをきっかけにしたコミュニケーションにもつながっていく仕組みになっています。
──だからこその紙なんですね。
佐野淳様:執務室に入るための鍵になっていますから、ピッとタッチするために、基本はいつも首に下げておいて、フロア移動のたびに触るものです。いつも触るだけに、Myヘルシーアクションを見返すことも増えますから、自然と自分の目標を意識付けられるというメリットがあります。
木下あけみ様:これも初期はなかなか書いて欲しいとお伝えしても、書いてくださらないケースも多かったのが現実です。そこで、年始の社長メッセージでMyヘルシーアクションについて触れていただき、全役員の宣言をポータルサイトに掲載するようにしました。
──役員の皆さんのコミット力が素晴らしいですね。
木下あけみ様:やはり健康第一主義というキヤノンのDNAがありますから、役員の皆さんもとても協力的で、率先して書いてくださるだけでなく、部下の皆さんにも書くことを勧めてくれる方も多いです。
さらに、Myヘルシーアクションに関するセミナーをeラーニングで実施しまして、カードの記入の仕方や使い方を説明する内容を解説してみました。結果、実態調査では54%まで活用率を高めることができています。

木下あけみ様:Myヘルシーアクションカードのいいところは、目標を書く面の裏側に、全社共通の健康目標を掲げていることです。それぞれ会社の課題である「メタボ」「メンタルヘルス」「がん」を予防・改善できる健康習慣を、エビデンスがあるものだけに絞って7項目載せています。
さらに、この目標は健康診断の問診項目とも連動しているという特徴もあります。この7つの項目のうち、私は3点、猪股が4点のようにいくつできているのかで比べられるわけです。これによって一人ひとりのヘルスリテラシーの簡易的な見える化が可能になりました。
また、これらを集計することで、組織ごとにヘルスリテラシーがどれくらいの点数になっているのかもひと目でわかります。

ちょっとしたきっかけを逃さない 健康を日常に落とし込む施策たち
──ヘルスリテラシーの見える化は非常に難しいとされていますが、これなら健診とのつながりもわかりますし、カードだけでできてしまうというところが画期的ですね。
木下あけみ様:正確には「健康情報の中から正しい情報を入手して活用する力」が本当のヘルスリテラシーなので、ちょっと違うものではあるのですが、定点で観測できているという意味で非常に有意義なものになっていると思います。これも長く続けている健康施策の1つですね。
これに加えて、健康イベントの推進も、工夫しながら行っています。
──イベントではどんなことをされているのですか?

木下あけみ様:こちらは健保のイベントなのですが、アプリを使ったウォーキングイベントでチーム対抗の、競い合う形のものを導入しています。
こういったイベントですと、参加率が1桁台という話を伺うこともあるのですが、キヤノンMJでは、参加率だけでも30%台と高い水準を維持しています。面白い傾向は、がん検診受診率の高い組織は軒並み参加率が高いということです。がん検診の受診を促されることで従業員自身の健康意識が変わり、こういうイベントに興味を持ってもらえるところまで変化してくるのは、かなり嬉しいことです。がん検診の受診促進同様、ウォーキングイベント参加率もグラフで地区ごとに比較しますので、競争意識につながっているのかもしれません。
──健康の連鎖は面白いですね。

木下あけみ様:個別施策では健康診断実施の流れの最後に、カゴメさんの「ベジチェック®」を置いておく施策もうまくいきました。ちょうど健康診断が終わって気の抜けたタイミングに、「野菜不足を皮膚で測定してみよう」とあるので、つい試したくなることが多いようです。設置に関しては特に人を配置したりはせず、興味があったら使ってみてくださいという緩やかなアプローチだったのですが、全国24会場において実施した結果、約80%の方に試してもらえました。野菜摂取の大切さを考えてもらうきっかけになったと思います。
──すごい人数ですね。これは何が要因だったのでしょうか?
佐野淳様:健康診断後の最後のスペースに設置しているというのが絶妙でして、それが受けたのだと思います。健診を受ける中で、自分の結果が悪そうだなと感じた人こそ、ベジチェックをみて、試してみたくなったのかなと。実際やってみると「やっぱり野菜足りてない!」みたいな会話でひと盛り上がりできるんです。

木下あけみ様:こういった活動を行っていくことで、従業員の健康意識も変わってきています。健康診断時の問診でとる生活習慣の改善意向の項目では、「生活習慣の改善意向がある」と答えてくれた方が、2010年に16.6%程度だったのが2023年には43.3%、約2.6倍まで増やすことができています。

──なかなか改善しないと言われている項目ですが、2.6倍は素晴らしいですね。
木下あけみ様:自己管理の重要性をがん検診やウォーキングイベントなどを通して伝えてきたことがようやく根付いてきたかなと思っています。
──それでは最後に、これから健康経営に取り組む企業様にアドバイスをお願いします。
木下あけみ様:これは私見になりますが、やはり健康診断や、そこからの要受診者へのアプローチといった取り組みは産業保健の根幹なのではないかと思っています。
健康経営に取り組み始めると、いろいろ問題点が見えてきて施策を打ちたくなると思います。それも必要なのですが、要受診者の方が受診もしていないのに、その先の禁煙や節酒のような事に取り組んでもらえるかというと、難しいのではないかと思います。
次の段階に進むためにこそ、まず健康診断を受けてもらうこと、そして異常があったらしっかりと受診して報告してもらう。この部分がまず大事なベースになると思います。いろいろな取り組みをしても、このベースは外さないようにすること。あとは、強制をしても人は動かないので、組織的に行っていくことも大事かなと思います。
──産業保健における健康診断は健康経営においても基本というわけですね。ありがとうございました。
まとめ
今回の千の提言では「健康第一主義」のもと、現場の保健師の方々を中心に全力で健康経営に取り組むキヤノンマーケティングジャパン株式会社のお取組みを全3回にわたってご紹介させていただきました。
全国統一の健康経営体制を構築するまでの軌跡や、社員一人ひとりの健康を支えるための取り組みなど、健康管理の基本や施策を戦略的に実施することがいかに重要かといったことに多くの学びと発見がありました。
また、がん検診の受診率向上や、要受診者のフォローアップなど、熱意と努力によって実現された施策をはじめ、保健師目線で開発された健康管理システムの開発・導入事例も、非常に参考になった方も多いのではないでしょうか。
健康経営は、企業の生産性向上や持続的な成長に欠かせないものです。本記事でご紹介した内容が健康経営に取り組む皆様の参考や企画のヒントになれば幸いです。
千の提言シリーズ
取り組む企業が16,000社を超えた健康経営。 そのお手本とも言える「ホワイト500」「ブライト500」企業は どんな失敗をし、何に悩み、どう成功パターンを発見したのか。 各企業の担当者に秘伝とも言える話を伺います。








