新しい10年へ 第2回健康経営推進検討会が示した健康経営の新たな姿

国内で健康経営顕彰制度が始まって10年。健康経営は新たなフェーズを迎えようとしています。今回の検討会では、主に次年度以降の政策推進の方向性について話されました。具体的には、健康経営による無形資産の蓄積、投資家に評価されるための可視化方法について、育成すべき健康サービス領域について、さらには、中小企業へ広げるための新たな方策などについて幅広く議論されました。この記事ではその一部をご紹介します。
令和6年の申請は例年同様14%以上の伸び率に


令和6年の健康経営優良法人の認定状況は、大規模、中小規模ともに申請数が順調に増加している状況です。大規模法人では昨年の3,520法人から14%増加となる3,869法人が申請し、認定も3,400法人と、いよいよ3,000の大台を突破しました。中小規模法人はさらに申請数が増えており、昨年の17,316法人に対して今年は20,267法人と2万件を超え、認定数も19,796法人となり、20,000件を伺うところまで拡大しています。ただ、上場企業における健康経営度調査の回答率は約3割と、まだまだ伸びしろが見える結果となりました。

大規模法人で特に申請が伸びているのは、倉庫・運輸関連業で、全体平均が5%のなか50%に迫る勢いとなりました。また業界カバー率では電気・ガス業が最も多く、75%となりました。
そのうち健康経営銘柄2025としては、29業種、53社が選定されています。
いよいよ改訂版 健康経営ガイドブックが完成・公開へ

これから健康経営を始める企業はもちろん、多くの企業にとって健康経営の指針となる「健康経営ガイドブック」の改訂と公開が発表されました。今回の改訂では、「健康風土」や「社会関係資本」といったガイドブック刊行当時はまだ論点になっていなかった部分を新たに加えたほか、今まで別れていた「健康経営ガイドブック」と「健康投資管理会計ガイドライン」の内容を更新して1本化しています。
また、健康経営そのものの定義も、人的資本と社会関係資本という2つの無形資本への投資を通じて企業価値向上を目指す経営手法であり、人的資本経営の土台となるものとしています。これに合わせる形で、「健康投資による人的資本・社会関係資本の形成・蓄積」を明示しているのが主な改定内容となります。
ちなみに、社会関係資本とは、従業員間や組織内の相互の信頼やネットワーク、心理的安全性が高い関係性などを資本として捉えた概念です。従来の健康経営は人的資本には十分にアプローチすると考えられていましたが、前述の通り今回の改訂に合わせて健康経営がもたらす効果の一つとして大きく取り上げられています。
次年度以降の調査票へより多面的・大局的な評価を導入

次年度の調査票に向けても検討が進みました。さまざまな論点が上がりましたが、大筋としては、より健康経営の効果をわかりやすくするために、多面的・多層的な評価の導入が図られているということです。
「健康経営の可視化と質の向上」における経営層の関与については、社内浸透を促進する経営層の動きをより多面的に評価できるよう、「年度ごとの経営者メッセージの社内外発信」「健康経営の意義に関する管理職研修」「取締役会での議論による改善内容の有無」といった設問を検討しています。これらの質問を通して、より具体的な経営層の関わり方を浮き彫りにしたい狙いがありそうです。

同様にPHR(パーソナルヘルスレコード:個人の健康や医療に関するデータをデジタルで一元管理する仕組み)についても、従業員がPHRを活用できる環境整備が進んでいるかを問う項目が追加されそうです。これは、今年度の調査の結果、保健師や管理栄養士といった健康・医療に関わるスタッフがPHRをもとにアドバイスや相談が行える環境を整備している法人の存在が明らかになったことがキッカケです。PHRを使用することで、よりパーソナルな課題の解決に繋がり、ひいては質の高い健康経営を実践することにつながります。その観点から次年度以降に「専門職・医療職が従業員自身の健康づくりをPHRを元にサポートできる環境がどれだけ整備されているか」を問う内容が追加される可能性がでてきました。

PHRに関しては、ほかにもデータ活用の観点から、次年度以降に「集計データ」を活用しているかを問う項目が登場しそうです。これは、今年度のQ43.SQ2.「PHRを個人が特定できないよう集計された状態で、サービスを提供する事業者から受け取り、その集計データを分析することにより部署ごとや会社全体としての健康状況を把握した上で、健康課題の抽出や健康経営の取組評価を検討することができるようにしていますか。(1つだけ)」の設問に加点するとともに、具体的な活用方法を選択肢で示して把握する方式を検討しています。それに先立ち、参考として可視化するサービス領域としてPHRと女性の健康サービスのリストを「ACTION! 健康経営」上に公開していることを明かしました。
女性の健康課題に向き合う取組事例集の初版を刊行

近年施策が進む「女性の健康課題」については、第1回で紹介された女性の健康施策の効果検証プロジェクトの締切が3月31日に迫った告知に合わせて、すでに115社からの申し出があることが公表されました。加えて、実際に取り組む企業がどのような施策を行っているのかをまとめた「女性の健康課題に対する取組事例集」が発表されています。本事例集では、幅広い企業に活用してもらうために企業規模別に女性特有の健康課題に対する先進的な取り組み事例を紹介しています。また、先進事例だけでなく、明日から真似できる取り組み事例も掲載し、幅広い間口に対応しました。
「心の健康」についてもガイドが刊行予定

企業にとって課題意識の強い「メンタルヘルス」の分野に関しても、新たに「心の健康」実践ガイドの制作が発表されました。このガイドは「心の健康」投資の意義について語るだけでなく、実際の進め方や事例を紹介することで、多くの企業へ周知啓発することを目的に制作が進んでおり、現在のところ4月以降に公開予定とされています。
合わせて、これまで度々議題に上がっていた職域向け心の健康サービス選択支援ツール「ウェルココ™」の進捗状況についても共有がありました。自社の課題に応じた専門的なサービス提供業者を見つけることができるツールとして、2025年秋公開を予定しています。心の健康に関しては、近年の課題意識の高まりとともに多くの企業が参入していることから、最適なサービスを選ぶことが難しくなっています。この解決手段として期待されているツールだけに、早い公開が望まれます。

また、先端技術活用メンタルヘルスサービス開発支援事業についても発表がありました。この事業は令和6年度補正事業で、デジタルメンタルヘルスサービスの開発支援と、中小企業などへの導入補助を実施するもの。従来の心の健康の増進だけでなく、まだまだ未開拓であるデジタルメンタルヘルスサービスの社会実験を促進していく目的も兼ねています。これからデジタルメンタルヘルスサービスの導入を考えている企業にとっては、導入への絶好のキッカケになりそうです。
成果と連動する健康経営支援が主流になる?

健康経営を支援するサービスを提供している企業にとって最も関心が高いであろう、「健康経営✕PFS(Pay for Success:成果連動型委託契約方式)」の導入についても話し合われました。本契約方式を健康経営支援サービスに導入した肥後銀行の事例を広げるべく、「健康経営アワード2025」や各種セミナーにおいて事例共有を進めていく方針です。
PFSは外部企業に対して実施をお願いする事業で、解決を目指す課題に対応した成果指標が設定され、その達成状況に合わせて支払額が変わる契約方式です。肥後銀行PFS事業では、肥後銀行健保組合と共同で、くまもと健康支援研究所に従業員家族の特定健診の受診促進を依頼。特定健康診査受診率が上昇することで成果報酬が増えていく仕組みで、大幅に受診率を改善しました。この契約方式を健康経営のサービスに導入することで、より質の高いサービスを提供できるようになると考えられています。
健康経営の国際展開はOECD等と連携して推進

現在注力して進められている健康経営の国際展開に関しては、OECD等と連携して欧州、アジアを中心に進める方針が発表されました。欧州に関してはOECDっと協力し、OECD Working Paper(各部門の研究報告)の作成を開始。健康投資によって得られる非財務的価値の指標の定義、収集、評価について、加盟国の企業、ファンドを対象に調査を始めています。アジアでは、先般国際規格化されたウェルビーイングISO(ISO25554)や健康経営認定制度をベースにグローバル版の健康経営度調査票を策定して広める予定です。また、METThailandと連携したタイでの健康経営顕彰制度の普及についても共有されました。これらを通して、世界に向けて健康経営の考え方、仕組みを広げようとしています。
より効果の見える化が進む健康経営

今回の検討会では、目に見えない資産である社会関係資本や評価されづらい人的資本への効果をより明確に視覚化するポイントが多く含まれていました。経営層、投資家目線からしても企業の価値を正しく評価し、従業員にとって働きやすく、生産性高い環境を作ることは急務です。これから始まる次の10年では、この視覚化が健康経営のキーとなります。健康経営の社会への浸透・定着もまだまだ道半ばです。これからも普及と進化(深化)を続けていくであろう健康経営に注目していきましょう。
健康経営/産業保健コラムシリーズ
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