千の提言

【千の提言#9】健康データの一元化で施策を効率化 二次検診の補助など細やかなケアで受診率をアップさせた成功施策(ライオン)

2025.6.16

ホワイト500/ブライト500を取得した企業は、どんな努力をし、どんな工夫をしているのか。千の提言第9回では、ライオンが健康経営を推進するために整えてきた健康システムを中心に、重点施策をご紹介します。これから新たに取り組む企業にとって気になる話題が満載です。

ライオン株式会社
1891年に創業された、ハミガキ・洗剤を中心とした大手生活用品メーカー。パーパスである「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」を実践するように様々な分野で先進的な取り組み、サービスを提供し続けている。従業員を協同者として、健康増進活動にも力を入れている。

健康経営優良法人 受賞・認定歴
2025年:健康経営優良法人2025~ホワイト500~
2024年:健康経営優良法人2024~ホワイト500~、健康経営銘柄2024
2023年:健康経営優良法人2023~ホワイト500~、健康経営銘柄2023
2022年:健康経営優良法人2022~ホワイト500~
2021年:健康経営優良法人2021~ホワイト500~
2020年:健康経営優良法人2020~ホワイト500~
2019年:健康経営優良法人2019~ホワイト500~
2018年:健康経営優良法人2018~ホワイト500~
2017年:健康経営優良法人2017~ホワイト500~

五十嵐 章紀(いがらし・あきのり)
人材開発センター
健康サポート室 室長

川本 和江(かわもと・かずえ)
人材開発センター
健康サポート室(平井)
保健師 産業保健看護上級専門家
健康経営エキスパートアドバイザー

目指せプロケア受診100%! オーラルヘルスケアのプロとしての予防歯科施策

──御社が健康経営を通して進めていらっしゃる予防歯科や健康行動の習慣化、がん対策の強化といった重点施策について伺わせてください。まずはライオンさん独自とも言える、予防歯科への注力について教えていただけますか。

川本様:予防歯科においては、『予防歯科プログラムALOHA』というものを制定しています。このALOHAは「All Lion Oral Health Activity」(ライオングループの従業員の口腔の健康に関する活動)の頭文字をとったものですが、2002年から弊社と健康保険組合、公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(以後:LDH)の三者で協力・連携して行っている活動です。ALOHAは3年を1期として考えてPDCAを回しています。

具体的に行っているのは、全従業員を対象とした口腔内の定期健診です。一次予防を中心とした口腔内の保健管理と従業員の健康管理能力の向上支援という形で、新入社員の研修も開催しています。他社様でも健康管理に関する新人研修を行うと思うのですが、弊社の場合はそこにオーラルケアの研修が1コマ入る形です。そこでオーラルケアの重要性をインプットするだけでなく、昼歯みがきを推奨し、弊社の昼歯みがきの携帯用セット『ミガコット』やクリニカのフロスなどを合わせて提供しています。オーラルケア研修は本社で開催するのですが、本社内には歯みがきスペースが各執務フロアに設けられており、その日から昼歯みがきの習慣化を始めることができるのです。この取り組みに関してはアンケート調査も行っており、ほぼ9割の新入社員が昼歯みがき習慣を身に付けられているという結果になっています。

──かなり早いうちから健康習慣を身につけられますね。

川本様:そうなんです。さらにライフサイクルを考慮して、50歳のタイミングでキャリアやお金、生活習慣病のような問題が出てきますので、半日研修を行っています。プラスして、50代に起こりやすいオーラルリスクに関するケアの情報提供もeラーニングで提供しています。こちらも研修だけで終わらないように、年代に合わせたオーラルケアグッズを視聴者にプレゼントしていました。いずれの施策も情報提供に留まらず、それを行動化しやすいようにグッズ配布なども組み合わせているのが弊社の特徴です。

──若手から管理者層までしっかりと行動化のケアを行われているのは素晴らしいですね。

川本様:あとは、各地の事業所内で歯科健診も基本的に実施しています。この取り組みも歴史は長く、従業員にとっては当たり前の文化にまでなっています。弊社ならではの取り組みとしては、共同で行っているLDHの歯科衛生士が、チェアサイド(患者の治療椅子で直接行う歯科処置や技術のこと)で口腔状態に合わせた保健指導も行っています。歯科医院で行うプロフェッショナルケア(プロケア)を受診しているか否かの回答に応じて指導内容を変えており、プロケアに行かれていない方には受診勧奨をしています。LDHが小規模事業所などの一部例外を除いて、全国の事業所で均質のサービス提供とデータの蓄積ができているところも大きな特徴と言えるでしょう。

──データの蓄積とありますが、年間でどれくらいの量になるのでしょうか。

川本様:全社員の約9割といったところです。

──それはすごいですね。歯科健診は大事だとわかっていつつも、なかなか一般の方だと行かないというのが現実だと思います。御社の場合ですと歯みがきから提供していることもあって、リテラシーが高まっているのでしょうか。

川本様:それもありますが、あとは同じグループ内に歯科の専門家がおりますので、歯科健診が身近で実施しやすい環境というのもあると思います。

五十嵐様:歯みがきセットを配布し昼休みにはセルフケアを実施、健康診断では歯科健診でチェック、さらに少なくとも年1回は歯科医院でプロフェッショナルケア(プロケア)を受ける、というところまでがひとつのサイクルとしてしっかり回るようになっています。プロケアはどんなに歯みがきをしていても歯石などはできてしまいますので、「3カ月から半年に1度は必ず歯医者に行きましょう、行った場合は会社が一部費用負担しますよ」という仕組みになっています。

川本様:今話にありましたプロケアの受診促進キャンペーンとして、上限2000円の費用補助をしています。また、社内の健康ポイントも付与されます。こういった形で受診への意識を高めようという狙いです。

健康システム『GENKIナビ』を使った健診~二次受診のフォローサイクル

──お話に出てきた健康ポイントというのは、どういったものになりますか。

川本様:弊社は2021年から健康管理システム『GENKIナビ』というものに刷新しまして、ワンストップで従業員も産業保健スタッフも健康管理に関するデータを取り扱えるようになりました。このシステムの一部の機能が先ほどの健康ポイントです。日々のミッションをクリアしてデイリーポイントを貯めたり、プロケアを受けるなど特定の行動をしたりすることでイベントポイントがもらえます。他にもポイントをもらう行動として、事業所の中に二次元コードを設置していまして、それを読み込むことでポイントを加算しています。本社ビルでは『GENKIアクションルーム』という健康増進を目的とした部屋の中に二次元コードがありまして、自然と訪れることになるわけです。

貯まったポイントはコンビニエンスストアやコーヒーショップのチケットと交換できます。あとは、サンクスポイントとして社員同士で送り合うこともできる仕掛けになっています。

──『GENKIナビ』は自社開発されているんですか。また、ナビの中ではどこまで健康データを管理しているのでしょうか。

川本様:この『GENKIナビ』は元々ベンダーが提供している商品を要件定義から一緒にカスタマイズして作り込んでいます。弊社のデジタル部門とも協力してアルゴリズムを作成し、3年後の健康リスク予測も搭載しています。特に生活習慣病に関するリスク予測と口腔リスクの2つを見ることができるのは、弊社のオリジナルの機能です。

健康診断結果も見ることができますし、ストレスチェックも実施まで行うことができます。それ以外にも、食事記録や運動記録なども含めて管理可能です。さらに、弊社は統一したWEB問診をしているのですが、その回答もアプリ内で可能です。また、アプリだけではなく、イントラサイトのウェブ画面からも確認ができます。弊社オリジナルな部分としましては、歯科健診の結果も見られるということでしょうか。アプリで見ることができると、そのデータを持って病院を受診したり、歯科健診結果を見せながら治療をお願いすることも可能です。

──今の生活習慣をそのまま続けていると、将来の病気リスクや、改善結果が、ひと目でわかるわけですね。

五十嵐様:従業員向けだけでなく専門職や医療職の人たちも使えるようになっていまして、保健指導の面談結果記録なども残せるようになっています。また、健診機関へ送付する受診者リストの作成もこちらで実施することが可能です。今まで様々なシステムを使ってデータ管理や作業をしていましたが、今はこれ1つでまとめてできるようになったので、よりデータ分析などもやりやすくなっています。加えて、これは全社共通のシステムなので、従業員が別の地区に異動してもそのままシームレスに使用でき、効率化にも役立っています。

──これは、ライオンさんに入社したら辞められなくなりますね。健康面からの人材流出防止策とでもいうのでしょうか。

川本様:アプリで健診結果が表示されるのは、従業員も受診勧奨で病院に行く際に結果票を紙で持って行かなくて良いということでもあります。やはりいろいろな方から話を聞いていると、皆さん紙だと捨ててしまうようです。捨てた後に保険に入りたいから結果の紙が欲しい等と言われても手間がかかってしまいます。そういったことの解決にもつながっています。

──この設計にも、お二人が関わられているのでしょうか。

川本様:GENKIナビシステムの担当者らは、2020年に業者選定を始めて、21年にリリースという1年くらいのペースで行いました。特定保健指導の部分に関しては私が担当しました。

──素晴らしいスピード感ですね。健康リスクなどのマイナスを0にする対策はシステム面も含め手厚くされているのがよく理解できました。一方で、健康経営における従業員の生産性向上のような取り組みはされているのでしょうか。

川本様:GENKIナビでは、データを個人に見せるだけではなく、完全に個人が特定できない形に変換した上でデータサイエンス部門と連携をして組織の見える化にも活用しています。

弊社オリジナルで 保険者のスコアリングレポートに似せた形のレポートを作れるようにしてありまして、地区ごとの健康状態、口腔健康の状態を共有しています。これを元に、各地区で健康増進の取り組みを実行してもらっています。

がん検診・二次検診費用を補助することで受診率がアップ

──それ以外のがん予防はどのようなことをされているんですか。

川本様:こちらはプレゼンティーズム、アブセンティーズム、医療費の低減というものを目指し、リスクの高い年代に合わせて精度の高い検査を受けやすくなるよう2021年から費用補助を行っています。制度としては、40歳の時点で肝炎ウイルス検査と胃がんリスク検査のABC検診を一律で受けていただいています。あとは45歳は胃内視鏡検査を、50歳以上は胃内視鏡、肺のCT、大腸内視鏡などを3回まで自由に受けられるようにしていました。自費診療の場合にのみ費用補助を上限5万円としました。これを2021年から2023年の3年間実施したところ、40歳の受診率が最も高い結果となりました。その中で胃がんのリスクがある方が一定数いまして、胃の内視鏡検査を勧めたところ、1名に早期胃がんが見つかったという事例があります。あとはピロリ菌の除菌の必要性がある方も複数見つかり、胃がんリスクを大幅に低減させる成果に繋がりました。

一方で50歳以降のケースでは、自由に選択できるようにした結果、リテラシーのレベルが出る結果になってしまいました。特に多いのが「どの検査を受けたらいいかわからない」というもので、利用者が10%台にとどまっていました。そこで2024年からは40歳、50歳、60歳の10歳刻みの節目年齢に推奨検査の受診機会として案内することにしました。

五十嵐様:51歳など区切りに合わない方に関しては、二次検診になった際に健保から補助を出すという形にしています。

──健保から補助が出るのは嬉しいですね。「受けてください」の言いっ放しで終わらないのが素晴らしいです。

川本様:健保から費用補助の申請書をお送りしてもらうと、みなさん「受けないと損」という気持ちになるのか、意外と反応良く受けていただけます。やはり二次検診ですと一般的には保険診療になりますので、どうしても個人で支払う形になります。それも安くない値段であるケースが多いです。そこに対して補助が入るので、好反応なのだと思います。

──これだけ取り組みが進んでいると、従業員の方も動いてくれそうですね。従業員の巻き込みという文脈では、悩みなどはないのでしょうか。

川本様:他社の方が抱えている悩みと弊社の悩みもあまり変わらないと思うのですが、従業員の巻き込むために活用しているのが健康ポイントです。ただ、これも参加者が固定化されてきてしまうので、無関心層、岩盤層と言われる方々をどう巻き込んでいくのかを基準に施策を行っています。例えばプロケアの受診促進キャンペーンも、「会社としての強みであるオーラルケアのリテラシーを高めていきましょう」ということで、管理職から従業員にお話をいただいています。『プロケア受診100%ACTION!』という、プロケアを100%にしようという活動を行っているのですが、まだ歯科健診受診率で90%程度、プロケアだと50%くらいと、道半ばといった感じです。

『GENKIナビ』も、健康診断結果やストレスチェックの受験などで年に1~2回は開く機会がありますので、そこで健康ポイントの付与などを行うことで、まず自分で開いてもらうことを習慣化しようとしています。

──最後に、これから健康経営を始める企業へのアドバイスなどがあれば教えてください。

川本様:弊社も2020年に私が初めて、健康経営度調査票に回答させていただいた時には偏差値もランキングもかなり低い状態でした。そこから、まずいぞ! ということで、本気になって今のような活動を展開してきたのですが、その前に他社様のHPをかなり参考にさせていただき、マネできるところはマネさせていただきました。こういったところから始めるのが良いのではないでしょうか。ただ、その中でも自社の強みを活かしていかないと持続可能な健康経営になりませんので、その視点はなくさないことが大事だと思います。

──ありがとうございました。

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取り組む企業が16,000社を超えた健康経営。 そのお手本とも言える「ホワイト500」「ブライト500」企業は どんな失敗をし、何に悩み、どう成功パターンを発見したのか。 各企業の担当者に秘伝とも言える話を伺います。

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