千の提言

【千の提言#3】経営層と従業員をつなぐのは「戦略マップ」:全日本空輸株式会社(ANA)

2024.11.6
【千の提言#3】経営層と従業員をつなぐのは「戦略マップ」:全日本空輸株式会社(ANA)

今や健康経営の代名詞となっている「ホワイト500/ブライト500」を獲得した企業たち。しかしそんな各企業も、初めは何も知らない状態からのスタートでした。連載企画「千の提言」では、これから健康経営を始める企業に向けて、健康経営の先鋭企業がこれまでに体験した失敗や成功の体験をインタビュー。健康経営を成功に導くためのヒントとしてご活用ください。

第3回となる今回は、「健康経営」という言葉が当たり前になる10年も前から社員の健康向上活動を経営の一環として取り組んでいた、全日本空輸株式会社(ANA)にお話をうかがいました。

全日本空輸株式会社

1952年の創業以来、安全運航を第一に半世紀以上にわたって航空輸送サービスを提供している企業。現在では、年間旅客数が5,000万人を超える世界トップクラスの航空会社のひとつにまで成長。「ワクワクで満たされる世界を」の実現を目指し、さらなる飛躍に向けてさまざまな取り組みに挑戦している。

健康経営優良法人 受賞・認定歴

2016年度:健康経営優良法人ホワイト500認定
2017年度:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定
2018年度:健康経営優良法人ホワイト500認定
2019年度:健康経営優良法人ホワイト500認定
2020年度:健康経営優良法人ホワイト500認定
2021年度:健康経営優良法人ホワイト500認定
2022年度:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定
2023年度:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定

山田 俊樹
全日本空輸株式会社

労政部 担当部長

2006年から始まった健康経営の取り組み

──そもそも、ANAが健康経営への取り組みを始めたキッカケから教えてください。

山田様:2006年に「ANA健康フロンティア宣言」を発表したことがキッカケです。当時はANAグループ全体ではなく、ANA単体としての取り組みで、社員の健康増進を通じて企業としての活力を向上していくことと、社員の生活の質「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)」の向上を目指すということを宣言いたしました。

その頃の日本では、高齢化や生活習慣の変化、社会環境の複雑化などを原因とした生活習慣病やメンタル不全が増加し、それにともなう医療費の増加が社会的に強く意識され始めていました。当社においても従業員の平均年齢が上がり、定期健康診断の中で要管理者比率が増えていたという課題があり、社員と会社と健康保険組合が一体となって健康増進策の推進をスタートすることとなりました。 

先ほど申し上げた通り、当初はANA単体での取り組みでしたが、2016年からはグループ全体で展開をすることになりました。その当時は、(結果的には1年延びましたが)2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて「さらにANAグループを成長させていこう」という気運が高まったタイミングであり、2016年度から20年度の中期経営戦略では、経営基盤の1つとして「人の力の最大発揮」が掲げられていました。そして中でも、健康経営の推進が人の力を発揮するための大きな柱に位置づけられていたのです。

このオリパラに向けた成長戦略、経営戦略に基づき、ANAグループの従業員が心身ともに健康で個性や能力を最大限に発揮できる環境をこれまで以上に整備することを目指して、2016年に「ANAグループ健康経営」を宣言いたしました。2016年というのは、ANAの国際線定期便が就航して30周年にあたる年でもありました。国際線事業の黒字化、国際線ネットワークの拡充に至るまでには、長きにわたり多くの先輩たちが続けてきた継続的な努力がありました。その上で成長してきたANAが、首都圏空港の発着枠拡大が予定されていた2020年に向けてさらに飛躍していこう、というタイミングが2016年だったわけです。そんな中で一丸となって頑張っていくための基盤としては、やはり従業員の健康保持、推進が重要であり、それをグループ全体に広げていくことで、従業員の活力やQOLの向上、そして、生産性の向上や品質の向上に向けて一層努力をしていこうということになったわけです。

──世の中で「健康経営」が認知され始めたのは2015、16年あたりです。2006年というとそれより10年も前ということになりますが、先駆的な活動だったからこそのご苦労も多かったのではないでしょうか。

山田様:私自身、2006年当時は別の部署にいたので、当時の事情を直接は知らないのですが、今でも健康経営に関する関心がに社内になかなか広がらないという思いを持つことがあります(私たちの努力の仕方も工夫しなければいけませんが)。今ほど健康に対する関心が高くなかった当時の担当者は、おそらくさらに大変だったかと思います。

他にも、たとえば2016年の健康経営の宣言以降にANAグループ全体で取り組みをスタートしたとお伝えしましたが、実は、健康診断の健診項目やその判定の評価基準が当時のANAグループ間で統一されていませんでした。健診項目自体も、それまでは全て紙やexcelデータで管理していたところに健康管理システムを導入し、かつ、その健診項目や判定基準の統一など、グループ全体での健康管理体制の整備や統一にもやはり時間がかかりますし、グループ各社や、産業医、保健師・看護師の方も含めた調整が非常に大変だったという話は聞いています。

──逆に、「ここはうまくいっているのでさらに力を入れている」というような、ANA流の健康経営の成功ポイントがあれば教えていただきたいです。

山田様:率直に申し上げて、まだ成功しているという感覚はありません。むしろ、どうすれば多くの従業員に対してもっと健康への関心を持ってもらうことができるか、ということを日々考えながら取り組んでいるというのが実態です。2024年4月の着任以来、チームメンバーと一緒に取り組んできて感じるのはデータを活用することの重要性ですね。さらには、戦略マップの重要性も実感しています。最終的な健康経営の目標に対してどういう施策を打ち、それがどのような影響を及ぼすかの仮説設計があり、さらにそれぞれの中間目標、KPIがあって……と、多くの企業でも作成されていると思いますが、その全体のストーリーには個人的にはまだ少ししっくりきていないところもあるので、まだまだ検討が必要だと思っています。

理想としては、その戦略マップの存在が、経営層が従業員に語りかける際や、従業員が健康の重要性を理解する際のサポートになるものを作りたいと思っていて、それに向けてさらに戦略マップの精度を上げていきたいと思っています。それができれば、一歩一歩進んでいるという実感が生まれ、成功体験として感じられるのかなと考えています。

健康経営の浸透に欠かせない戦略マップの重要性

──戦略マップを経営層が活用する、というお話が出ましたが、そもそも経営層に健康の重要性を理解してもらえないということに悩まれている企業も世の中には多いかと思います。ANAでは、その辺りを経営層に理解してもらうためにどのような工夫をされていますか。

山田様:ANAグループは航空運送事業、航空機のオペレーションをしていますが、航空機の運航にとって最も大事なのはやはり「安全」ということになります。安全にはいろいろな側面がありますが、その中でも「健康」は安全を担保するための重要な要素だと考えています。航空機の操縦や整備、機内での接客、空港でのグランドハンドリングをはじめ、オペレーションにおける安全と品質のためには心身のコンディションが基本であるという考えは、ANAグループ役職員には根付いていると思います。

社員が健康で良いパフォーマンスを発揮することにより、安全を堅持し高い品質のサービスを提供できる、さらに社員のやりがいや幸せに繋げていくことができるということは、経営層をはじめ社員も強く認識していると感じます。私自身、経営層の皆さんと話をする機会がありますが、多くの方が口を揃えて、健康経営の重要性、心身の健康の大切さについて語ることが多いです。

ただ、経営層の皆さんが持っているそうした思いを従業員に分かりやすく伝えられているかというと、それはまた別の話だと思っています。なので、社員の理解や認識を分かりやすく共有できるような戦略マップを作ることができれば、経営層の皆さんがそれぞれに持っている思いを従業員によりわかりやすく伝えることができるのではないかと思いますし、多くの社員も健康経営について、より理解を深めて自分事と捉えてくれるのではないかと考えています。

「戦略マップの重要性と活用」について語る山田様

──「どう伝えるか」というところに力点を置かれているのですね。それには、やはり戦略マップ上でのKPIも重要になってくるかと思いますが、KPIの設計に関して気を付けられていることはありますか?

山田様:まさに今、戦略マップを見直そうと動いており、どのデータをどのように評価し、どうやって目標値を見極めるかということを、私たち労政部と健康保険組合、あとは健康管理センターのスタッフによりプロジェクト形式で進めているところです。

最終的には、みんながわかりやすいデータ項目や数値を設定しないといけないので、産業医や保健師・看護師の会議などに私たちスタッフも参加し、データ、KPIの設定について考えてみたものを提案しながらアドバイスをもらうというかたちで進めています。ですが、指標を設定するに当たっては、どういうストーリーを作り、経営目標である生産性の向上、社員の活力やクオリティ・オブ・ライフの向上に落とし込んでいけるかを考えていく必要がありますし、そのためには健康経営に関わる色々な施策、各種KPI、経営目標などの相関関係に関するしっかりとした分析も必要だと思います。どうやれば、最終的にみんなの意識変容や行動変容を促す土台が作れるのか、模索しながら進めているところです。

さらなる進化へ向け、産業医ともしっかり連携

──今のお話の中で、産業医や保健師・看護師の方々の協力も重要であると感じましたが、実際にはどれくらい連携できているのでしょうか。

山田様:これまでも個別の課題を相談したりすることもありましたが、十分連携できていたかというと、まだまだ私たち自身が産業医の先生にアプローチしきれてなかったと感じる部分もあります。なので、全国の産業医を集めた産業医連絡会をスタートさせ、テーマを決めて相談したり、検討中のデータの設定の仕方や目標値のあり方について相談する場を設けたりしています。そういった取り組みを進めていく中で「もっとこうやった方がいい」というアドバイスを産業医の先生が積極的にしてくれるようになっています。

今回の記事では、全日本空輸株式会社(ANA)の健康経営の歴史や、現状の取り組みの大枠について教えていただきました。次回の記事(後編)では、ANAがどうやって社員に健康を意識させているのか、その具体的な取り組みや施策についてレポートしていきます。

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取り組む企業が16,000社を超えた健康経営。 そのお手本とも言える「ホワイト500」「ブライト500」企業は どんな失敗をし、何に悩み、どう成功パターンを発見したのか。 各企業の担当者に秘伝とも言える話を伺います。

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