【第5回健康経営推進検討会の要約】企業の独自施策評価など、質向上と裾野拡大がテーマに

令和8年(2026年)3月17日、経済産業省は「第5回健康経営推進検討会」を開催しました。本検討会は、健康経営が明確なエビデンスに基づき企業価値を証明する「質の向上と可視化」のフェーズへ移行したことを示す内容となりました。この記事では、主要議題である「今年度の認定状況と今後の方向性」を通し、評価方法の変更、今後の進むべき方向性の明示、支援の状況などを解説します。
今年度の認定状況分析:拡大から「継続的な質」の評価へ


健康経営優良法人認定事務局である日経新聞社の報告では、大規模法人では、4,175件の回答に対し、3,765件が健康経営優良法人(大規模法人)に認定されています。これは前年度から385件(約11%)の増加と堅実な伸びを示しています。中小規模法人では23,460件の回答に対し、前年比約16.6%増(+3,289件)となる23,085件が認定されています。中小規模に関しては前年比を上回る伸び率で、今後も広がりが予想されます。

一方で、健康経営への認知度に関しては、いまだ7割以上の企業が「知らない」という結果があらためて示されました。大規模法人でも3割程度しか申請に参加していないほか、中小規模法人では特に中規模法人の未申請が目立つ結果となっており、申請拡大や認知拡大に向けての課題が浮き彫りになっています。
今後の施策では評価改正と支援の充実がポイントに
経済産業省は、これまでの裾野拡大という量的成長を背景としつつ、今後は「人的資本投資が具体的にどう業績や市場評価に結びついているか」という戦略的ストーリーが不可欠であるという報告となりました。認定取得はスタートラインに過ぎず、投資家や労働市場といったステークホルダーに対し、施策のインパクトを論理的に提示できるかどうかが、企業の命運を分ける時代に突入していきます。
議論①:新制度「健康経営銘柄Premier(プレミア)」の創設へ

まず提案されたのが、健康経営銘柄継続選定企業の顕彰制度の名称です。昨年開催された第4回で議論された「健康経営銘柄の殿堂入り制度」ですが、「殿堂」という表現や位置づけが継続議論になっていました。今回はその定義が整理され、あらたに「健康経営銘柄Premier」として提案されました。単発の取り組みではなく、長期にわたり高水準の健康経営を維持している企業を特別に顕彰することで、投資家等のステークホルダーに対し「持続可能なレジリエンスを持つ企業」としての確固たる信頼を担保する狙いがあります。認定要件は下記の3つの要件を満たした企業になります。
- 要件①健康経営銘柄に通算して10回以上選定されていること
- 要件②当該年に健康経営銘柄に選定されること
- 要件③地域住民も含めた地域や取引先企業等のサプライチェーンに対し健康経営の普及活動を行っていること
本案では、ホワイト500を取り続ける限り継続選出するとされていますが、委員からは期間限定や、要件の厳格化などが提案され、引き続き審議することとなっています。
参考:優良法人認定は土台・風土づくり重視が鮮明に 第4回健康経営推進検討会から紐解く今後の方向性(GO100)
議論②:企業価値を左右する「テーマ別評価」の導入がより具体化へ

100社100様の健康経営に向けて、評価基準により戦略的な「テーマ別の取組」を導入することが検討されました。これまでも個別の取り組みに関してはテーマに回答する形で健康経営度調査票の小項目に存在しましたが、より各企業の創意工夫や課題へのアプローチを明確にする形へと変わります。今後は、自社が最も注力した取り組みに関して、自由にテーマを設定し、記載することが可能になります。合わせて、健康経営度調査における総合的評価の一定水準以上の企業について審査・選定も実行。大規模法人部門から10社、中小規模法人部門から40社を選定し、ベストプラクティス事例集として公表することも発表されました。
将来的には他省庁の顕彰制度との連携も検討していくなど、単なるアクティビティ(活動)報告から、アウトカム(成果)ベースの証左への転換を強く求める、重要な評価変更となります。本評価では、「データに基づかない健康経営はもはや経営戦略として認められない」というメッセージも含まれていると考えられ、健康経営の深化・進化につながる、重要な変更になりそうです。委員からは、評価されることによるメリットの提示や、協力企業、協力健保、コンサルタントなど、個別に表彰する案など、数多くの意見が出ており、更なる変更が加わる見込みとなっています。
議論③:中小企業への裾野拡大は3つの対応策で強化

今回申請数が2万件を超えた中小規模法人ですが、認知度や取り組み方についての提案が足りていないことがネックとなっています。第4回検討会ではサポーターを活用した取り組みやすい環境づくりとともに、中小企業が取り組むきっかけとなる理由や具体的事例の必要性についての意見も多数寄せられたことから、下記の3つの対応策を実施することが提案されました。
- ①健康経営に取り組む動機づくり
- ②中小企業向けのメリットや取組の見える化
- ③経営支援機関と連携したサポート体制

特に動機づくりに関しては、補助金における審査加点や、融資での特別利率の適用(ネクストブライト1000以上)など、経営上の具体的なメリットを大きく押し上げる見直し策が提案されています。

また、メリットや取り組みの見える化についても人材面を中心に、メリットを広報していくほか、よろず支援拠点や商工会、商工会議所などの経営支援機関や、健保やさんぽセンターなどの健康課題に関する機関と連携した中小企業への支援を広げていくことが提案されました。
議論④:ライフデザイン経営をアンケート項目として新設

ライフデザイン経営とは、従業員がキャリアと私生活を両立させ、充実した人生設計(ライフデザイン)を実現できるよう企業が支援することで、人材の潜在能力を最大限に引き出し、企業価値の向上に繋げる経営アプローチです。第4回検討会で出された同概念は、個人のウェルビーイング向上とともに、エンゲージメント向上等を通じた生産性の向上に資することも期待できることから、企業として健康経営の一環として取り組む意義があると考えられ、アンケート項目として新設される方向性となりました。
主には、ライフデザイン経営の認知を問うほか、現在の実践内容を選択式で回答する方向で検討されています。
議論⑤:政府が重点を置くプレコンセプションケアは認知拡大が課題

現在政府が推進する「攻めの予防医療」にも含まれ、今後重視される見込みであるプレコンセプションケアですが、大規模法人では、内容を知っている企業は6割以上に広がっているものの、実践している企業は17.8%にとどまる結果となりました。中小規模法人では、認知度が大きく下がり、13.7%にとどまるなど、認知拡大が課題であることが明確になっています。大規模、中小規模を合わせた具体的な取り組みでは、研修の実施が60%と最多、次いで相談窓口の設置(43%)が続く形となりました。今後は、プレコンセプションケアの多様化も重要になる見込みです。
議論⑥:健康投資額を再集計し、見える化へ

2018-2019年に調査実績があった健康経営への投資額調査に関しても、復活することがアナウンスされました。職域における健康投資は現在多岐にわたり、外部コンサルティング会社の利用や、PHRの測定なども増えています。結果として1人あたりの投資額も各社で大きな幅があると推測されます。次回以降、健康経営度調査等を活用した健康投資額の見える化について検討されます。委員からは産業保健分野や福利厚生とどう分けるかなど手法についての疑問が呈されており、今後詳しい集計方法などが発表される見込みです。
参考資料から読み解く今後の課題
経産省・事務局からの発表以外では、樋口委員から参考資料の提出がされましたが、ここでは今後の健康経営の大きな課題となるであろう「仕事と介護の両立」についてや、エンゲージメントと施策との関係性について言及されています。
次なる経営課題「仕事と介護の両立」という人的資本リスク

樋口委員が提出した健康経営先進企業事例集の中で最も警鐘を鳴らされたのが、企業が直面している「静かな人材危機」である「仕事と介護の両立問題」です。健康長寿産業連合会が調査票の関連設問をもとに作成したアンケートデータをまとめた数値は、経営層が直視すべき深刻な人的資本リスクを浮き彫りにしています。まず、顕在化するリスクとして、すでに13人に1人(7.6%)の従業員が介護と仕事の両立を行っているデータが示されました。一方、今後5年以内に介護が発生する可能性がある予備軍は約35.2%にも達し、3人に1人が当事者となる未来が目前に迫っています。

介護は育児支援と異なり、「突発的に発生する」「終期が不明(いつまで続くか分からない)」「男女差がほとんどない」という構造的特性を持ち、予見が極めて困難です。現在、83.3%の企業が実態把握に着手しているものの、その結果を人的資本戦略として統合し、具体的なPDCAを回せている企業はわずか数%(6社等、極めて限定的)に過ぎません。
制度整備(介護休業等)は進んでいるものの、「戦略的な統合」が不足しているのが現状です。これは「突然の離職」という形で経営基盤を揺るがす、極めて深刻なビジネスリスクと言わざるを得ません。今後はより具体的かつ効果的な施策が求められる可能性があります。
エンゲージメントと業績の相関が明確に

樋口委員が提出したもう一つの資料は、順天堂大学との共同研究に基づいた投資対効果を調べたものとなります。従来の研究では、業績とエンゲージメントの関係や、施策とエンゲージメントとの関連性が見えにくいことが多いとされてきましたが、本研究では明確に結果が出ています。最も大きな成果はエンゲージメント業績との相関関係を明らかにしたことでしょう。本研究では、高い従業員エンゲージメントを持つ企業は、そうでない企業に比べ、高収益である確率が1.65倍、高営業利益である確率が1.40倍(いずれも調整オッズ比[aOR])という極めて強い相関が確認されています。
施策ベースでは、従業員の健康状態(適切なBMI維持[aOR: 1.02]、運動習慣[aOR: 1.02]、十分な睡眠[aOR: 1.03])がエンゲージメントと有意に正の関連を示す一方、喫煙(aOR: 0.98)は負の関連を示すことが明らかになりました。これにより、施策の導入が単なる「福利厚生」ではなく「投資的成功」に直結する裏付けが、一歩前進したこととなります。
健康経営優良法人取得を目指すなら効果検証設計がカギ
第5回検討会では、健康経営が「福利厚生」から、持続可能な組織を支える「経営基盤」へと明確に変化したことが示されました。健康経営は、激動の時代において優秀な人材を惹きつけ、組織のレジリエンス(回復力)を最大化する最強の経営戦略です。今回の指針を追い風に、貴社の取り組みを「企業価値を駆動する、真に選ばれる健康経営」へと昇華させていきましょう。
健康経営/産業保健コラムシリーズ
企業に義務付けられている産業保健体制の構築から 健康経営の考え方・推進法まで幅広い話題をご提供。 これを読むだけで今求められている施策・対応への理解が進みます。



