優良法人認定は土台・風土づくり重視が鮮明に 第4回健康経営推進検討会から紐解く今後の方向性

公開日: 2025.12.22
更新日: 2026.2.19
第4回 健康経営推進検討会

経済産業省が推進する「健康経営」は、量的な拡大を遂げ、今や「質の深化」が問われる新たなステージへと移行してきました。実際、量的な面で見ると、2026年度の健康経営度調査への回答数は、大規模法人部門で前年比7.9%増の4,175法人、中小規模法人部門で申請数は前年比15.9%増の23,485法人に達しています。ここにより質的な変化を加えていくため、2025年12月16日に開催された第4回 健康経営推進検討会では、新たな方向性が提案されました。この記事では、最新の動向を整理し、2026年度以降の健康経営に求められる具体的な戦略をご紹介します

変化1:健康経営は「普及」から「定着+社会への波及」フェーズへ移行

今後の健康経営の行方を考える上で重要な提言が、「普及啓発・裾野拡大」から、「地域社会や国際社会への波及」を目指す新たな段階への完全移行です。これは、自社の従業員の健康を守るという従来の健康経営の考え方から、企業価値と連動した社会的インパクトを創造する外向きの活動への移行を強力に推進することを意味します。これまでも健康経営は2014年の開始から2025年に至るまで、ESG投資、人的資本経営、ウェルビーイング経営といった社会の大きな潮流と連動してきました。今後は企業が培った健康経営のノウハウをサプライチェーンや地域社会、国際社会へと展開することが新たなミッションとして掲げられています。この戦略的シフトが、2026年度以降に導入される変更点の根本的な背景になります。

この新フェーズへの移行を支えるため、推進体制も新たな官民連携モデルへと進化、日本健康会議 健康経営・健康宣言15万社ワーキンググループとの合同開催形式にし、健康経営推進検討会の設置要領に「中長期的な方向性の検討」、「推進に関する確認・助言」、「事務局の主催する各種委員会との連携」の3点を追記されます。今後は政府がガイドライン作成や国際ルール形成といった「認定制度の質の担保」に注力し、制度運営そのものは民間が担うことで、持続可能で質の高い健康経営を社会全体で推進する基盤を整えていきます。ただ、開催時期に関しては、原則7月と3月の年2回開催に移行を予定していましたが、今後も議論を重ねる形となりました。

出所:経済産業省「第4回健康経営推進検討会・事務局説明資料」

変化2:継続性と独自性を育てる評価・顕彰制度への舵切り

ここまで紹介した健康経営の進化を具現化するため、検討会では2026年度に向けて2つの極めて重要な変更点が打ち出されました。それは、各企業における健康経営の「卓越性」をどう定義し、評価していくかを示す内容となっています。

継続的・傑出した取り組みを評価する「健康経営銘柄の殿堂入り制度(仮称)」の新設

健康経営推進企業のトップオブトップである『健康経営銘柄』は、単年度の取り組みが評価の中心でした。しかし、真の健康経営は継続的な実践によってこそ企業文化として根付き、価値を生み出すという認識に基づき、長年にわたり傑出した取り組みを続ける企業を特別に顕彰する「殿堂入り制度」が創設予定となりました。継続性という最も重要な価値を評価することで、企業のブランド価値、特にESG投資家や優秀な人材に対する訴求力を格段に高める戦略的な意味を持ちます。
今回提案されている殿堂入りの要件は以下の通りになります。

  • 要件①: 選定回数が通算10回以上であること
  • 要件②: 当該年に健康経営銘柄に選定されること
  • 要件③: 地域住民やサプライチェーンに対し健康経営の普及活動を行っていること

また、継続性を評価し続けるため、殿堂入りした企業はホワイト500の認定を維持する限りその称号を保持でき、各年の健康経営銘柄の選定プロセスからは外れます。これにより、トップランナー企業は単なる評価対象から、業界全体を牽引し、社会へ価値を波及させる「ロールモデル」としての役割を担うことが期待されています。
ただし、委員からは「殿堂」という名称や役割の位置づけなどがまだまとまりきっていないという指摘が続出。さらなる制度の設計が試みられる予定です。

出所:経済産業省「第4回健康経営推進検討会・事務局説明資料」
出所:経済産業省「第4回健康経営推進検討会・事務局説明資料」

独自性が企業価値を高める!企業価値向上に資する「テーマ別の取り組み」を評価・公表

現在、健康経営度調査票による顕彰は、画一的な対応にとどまり、企業の独自性や本質的な価値が外部に伝わりにくいという課題が浮き彫りになっています。今後は100社あれば100通りの健康経営を各社が追求できるよう、健康経営度調査票を「教科書」としてベースにしつつも、企業価値を高めていけるような取り組みを評価することが重要であるとしています。これにより、後述する資本市場・労働市場からの評価が、現状の健康経営では十分に得られていないという問題点の解決を図っていきます。

本取り組みでは、各社が自社の経営課題に即した独自の健康経営を追求し、企業価値向上に繋げる物語(ナラティブ)を構築することを強く促しています。この動きを後押しするため、今後は特定のテーマに関する先進的な企業の取り組み事例が積極的に紹介されるようになります。
現在テーマ候補として、以下のような項目が挙げられています。

  • 女性の健康保持・増進に向けた取組
  • 仕事と介護の両立支援の取組
  • 心の健康保持・増進に向けた取組
  • 運動機会の増進に向けた取組
  • 食生活改善に向けた取組
  • 年齢に配慮した職場づくり
  • 企業価値向上に繋がる健康投資

この本質的かつ価値志向への転換は、健康経営の定義そのものを拡張し、従業員のライフジャーニー全体を視野に入れた2つの重要な新概念を取り込む動きにも表れています。委員からも高評価を受けていた一方、取組内容や評価などでの指摘も相次ぎました。

出所:経済産業省「第4回健康経営推進検討会・事務局説明資料」

中小企業ではまだまだ普及が必要

一方、今回の発表では、大規模法人部門と中小規模法人部門での取り組み割合に大きな開きがあることが指摘されています。大規模法人では、全企業中約33%が認定されているのに対し、中小規模法人では0.59%にとどまっている結果が浮き彫りになりました。
今後中小規模法人に向けては、手法、資金、人的リソースなどを実感しやすいよう、自治体や商工会議所などによる地域支援ネットワーク拠点の重要性が指摘されています。

変化3:社内から市場、国際社会まで広がるインパクト

健康経営の新フェーズが目指すのは、社内での取り組みの成果を、資本市場、労働市場、そして国際社会へと波及させ、企業価値として明確に認識してもらうことになります。

資本市場・労働市場へのアプローチ強化

その中で大きいのが企業側の情報開示努力と、市場側の認識との間に存在する深刻なギャップです。機関投資家のうち、投資判断で健康経営を意識しているのはわずか33%。さらに衝撃的なのは、上場企業の35.1%が投資家との対話で健康経営が「特に話題になったことはない」と回答しています。労働市場でも同様で、求職者の59%が「健康経営という言葉を聞いたことがない」のが実情です。

このギャップを埋めるべく、「人的資本可視化指針」内に「健康・安全」や「エンゲージメント」が重要開示項目と明記されたほか、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正によって、2023年3月期決算から上場企業を対象に人的資本の情報開示が義務化されました。これを活かす形で、今後は企業の健康経営の取組を投資判断に反映させるための更なる仕組みや、投資家や求職者といったステークホルダーに「響く」情報発信が求められます。

前述した「テーマ別の取組」の評価は、まさにこの課題への直接的な回答であり、各社が独自の価値創造ストーリーを語ることで、適切な外部からの評価とプレッシャーを創出し、健康経営を次のレベルへと引き上げることを目指しています。

出所:経済産業省「第4回健康経営推進検討会・事務局説明資料」

健康経営の国際展開を加速

ISO化をはじめ、健康経営は日本発の手法として世界に通用するモデルとして国際展開が加速しています。その戦略は二本柱で構成されています。

  1. 欧州での普及
    経済協力開発機構(OECD)と連携し、従業員の健康とウェルビーイングに関するグローバル指標を盛り込んだワーキングペーパーを作成。概念の国際標準化を進めています。
  2. アジアでの展開
    国際規格ISO 25554をベースに、タイで現地の状況に合わせた認証制度の設計を推進。これを足掛かりに、日本型のヘルスケアサービスの輸出を促進します。
出所:経済産業省「第4回健康経営推進検討会・事務局説明資料」

「ライフデザイン経営」の紹介と「プレコンセプションケア」の推進活動

検討会では、健康経営に連なる新たな取り組みとして、「ライフデザイン経営」と「プレコンセプションケアの推進」に関して紹介がありました。この2つの考えは、オフィスという物理的な境界と、就業期間という時間的な境界を越えた取り組みとなり、より身近に、より人生に関わる内容となります。

従業員の人生設計を支援し、企業成長につなげる「ライフデザイン経営」

ライフデザイン経営とは、従業員がキャリアと私生活を両立させ、充実した人生設計(ライフデザイン)を実現できるよう企業が支援することで、人材の潜在能力を最大限に引き出し、企業価値の向上に繋げる経営アプローチです。
このアプローチは、企業と従業員の間に強力な好循環を生み出します。企業によるライフデザイン支援が従業員のウェルビーイングを高め、それがエンゲージメントと生産性の向上に繋がり、最終的に離職率の低下といった形で企業業績を押し上げます。

今回は、同取り組みに関するデータによる裏付けも紹介されました。ライフデザイン支援を行う企業では、従業員エンゲージメントとの間に統計的に極めて強い正の相関(0.35)が見られ、ライフデザイン支援が従業員の意欲向上に直結することが示唆されました。同時に、新卒社員の離職率とは有意な負の相関(-2.52)を示し、人材定着への貢献も明らかになっています。このほか、具体的な企業での取り組みとして、株式会社銚子丸での柔軟な職場環境の構築に踏み切った結果、離職率が12.6%から7.5%へと劇的に改善し、女性正社員数は4倍に増加したことが紹介されました。

出所:経済産業省「ライフデザイン経営とライフデザインサービスの普及拡大に向けて
~健康経営におけるライフデザインの重要性について~」

性別を問わない、次世代の健康とキャリア支援となる「プレコンセプションケア」

プレコンセプションケアとは、こども家庭庁が提唱する概念で、「性別を問わず、適切な時期に、性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う」ことを指します。
このアプローチは、単なる福利厚生ではなく、企業の根幹をなす人材戦略に大きく関連するものとなります。

今回紹介された調査では、大学生の66%が「不妊のリスクは30代後半まで上がらない」と誤解しており、多くの若者が十分な知識を持たないままキャリアをスタートさせていることが明確になりました。実際には妊娠率は男女ともに年齢とともに低下するため、知識不足がキャリアプランとライフプランの間に意図せぬ乖離を生むリスクとなります。
政府は「プレコンセプションケア推進5か年計画」を策定し、企業に対して以下の取り組みを要請しています。
企業がこの概念を導入することは、従業員のライフプランを尊重し、キャリアの継続を支援する明確な意思表示につながります。

出所:こども家庭庁「プレコンセプションケア取組の推進 健康経営の新視点
~性別を問わない、性と健康に関する正しい知識の普及に向けて~」

2026年に向けて、健康経営を進めるために準備すべきこと

健康経営は、単なるコストや福利厚生から、企業価値を創造する「戦略的投資」へと、その位置づけを大きく変えました。2026年度に向けた今回の検討会では、この変化を加速させる明確な意志を感じます。今回の検討会を受けて、企業が準備すべきことは、以下の3項目となります。

  • 長期・継続的なコミットメントへ:
    単年度の評価だけでなく、持続可能な仕組みを構築し、長年にわたる揺るぎないコミットメントを示すことが、企業のブランド価値を決定づけることになります。
  • 「画一的」から「自社独自の戦略」へ:
    調査票への画一的な対応から脱却し、自社の経営課題と直結したユニークな「テーマ別の取り組み」を推進することが求められます。自社の健康経営が、いかにして具体的な企業価値向上に繋がるのか、その説得力あるストーリーを構築することが不可欠です。
  • 社内から社外へのインパクト創出へ:
    自社の活動成果を、資本市場、労働市場、そして国際社会に向けて戦略的に発信し、社会全体への波及効果を生み出すことが新たな目標となります。健康経営の価値を社外に証明できてこそ、真の競争優位性が確立されます。

これらの変化は、新たな負担や要求事項ではありません。むしろ、人的資本の価値が企業競争力を左右する時代において、持続的な成長を達成するための絶好の戦略的機会です。今こそ、自社の健康経営戦略をゼロベースで見直し、次なるステージへの一歩を踏み出しましょう。

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