健康診断に関する法律「労働安全衛生法」とは? 法定項目や実施すべき対象者を解説

「労働安全衛生法で定められている健康診断の項目は?」
「労働安全衛生法にもとづく健康診断を従業員が拒むとどうなる?」
企業で健康診断を実施する際に、上記のような疑問をもつ人事労務担当者の方も多いでしょう。
労働安全衛生法では、健康診断の実施や結果の記録、通知などが企業に義務付けられています。法律違反に対する罰則も定められているため、健康診断を実施する前に労働安全衛生法の内容を理解しておくことが重要です。
本記事では労働安全衛生法で定められている健康診断の法定項目や対象者、健康診断を従業員が受けない場合の対処法を解説します。
健康診断に関する法律「労働安全衛生法」とは

労働安全衛生法は労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を作るために制定された法律です。
健康診断の実施義務に関しては、労働安全衛生第7章「健康の保持増進のための措置」の第66条に記載されています。
労働安全衛生法は内容が膨大なため、健康診断の具体的な事項は「労働安全衛生規則」で定められています。労働安全衛生法で定められている企業の健康診断に関する義務は以下のとおりです。
- 健康診断の実施
- 健康診断結果の記録と通知
- 健康診断結果についての医師などからの意見聴取
- 健康診断実施後の措置
- 労働基準監督署に対する健康診断結果の報告
企業には健康診断を実施して、診断結果の管理と事後措置を行う法的義務があります。
参考:「労働安全衛生法」(e-GOV法令検索)
参考:「労働安全衛生規則」(e-GOV法令検索)
労働安全衛生法で定められた健康診断の種類と項目

労働安全衛生法で実施が定められている健康診断は、以下のとおりです。
- 一般健康診断
- 特殊健康診断
- じん肺健康診断
- 歯科医師による健康診断
それぞれの内容を解説します。
参考:「労働安全衛生規則」(e-GOV法令検索)
一般健康診断
一般健康診断は、企業が常時使用する労働者を対象にした健康診断です。労働安全衛生規則により以下の5種類に分かれます。

雇入時の健康診断と定期健康診断は常時使用する労働者の全員が対象になるため、検査項目を把握しておきましょう。雇入時の健康診断と定期健康診断の項目は以下のとおりです。(労働安全衛生規則第43条、労働安全衛生規則第44条)
| 健康診断の種類 | 検査項目 |
|---|---|
| 雇入時の健康診断 | ・既往歴および業務歴の調査 ・自覚症状および他覚症状の有無の検査 ・身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査 ・胸部エックス線検査 ・血圧測定 ・貧血検査 ・肝機能検査 ・血中脂質検査 ・血糖検査 ・尿検査 ・心電図検査 |
| 定期健康診断の項目 | ・既往歴および業務歴の調査 ・自覚症状および他覚症状の有無の検査 ・身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査 ・胸部エックス線検査および喀痰(かくたん)検査 ・血圧測定 ・貧血検査 ・肝機能検査 ・血中脂質検査 ・血糖検査 ・尿検査 ・心電図検査 |
雇入時の健康診断は入社前3ヶ月以内に医師の健康診断を受診している場合、健康診断の結果を証明する書面を提出することで、すでに検査した項目を省略できます。
また、定期健康診断の項目は、医師が不要と認めるときに一部を省略できます。省略可能な項目と基準は以下のとおりです。

定期健康診断は1年以内ごとに1回の実施が義務付けられています。ただし、特定業務従事者の場合は、6ヶ月に1回は実施しなければなりません。
以下の業務に従事している労働者は特定業務従事者に該当するため、対象者がいないか確認しておきましょう。

特殊健康診断
特殊健康診断は、以下の有害な業務に従事する労働者を対象に実施する健康診断です。労働安全衛生法第66条第2項によって定期的な実施が義務付けられています。
- 高気圧業務
- 放射線業務
- 除染等業務
- 特定化学物質業務
- 石綿業務
- 鉛業務
- 四アルキル鉛業務
- 有機溶剤業務
出典:「特殊健康診断」(厚生労働省)
健康に悪影響を与える可能性がある化学物質や放射線を扱うため、業務に応じた特別な診断の実施が必要です。
特殊健康診断は、雇用時と人事異動の際、または6ヶ月以内ごとに1回実施する必要があります。
じん肺健康診断
じん肺健康診断は、常時粉じん作業に従事している労働者と常時粉じん作業に従事したことのある労働者の一部を対象とする健康診断です。
粉じん作業は、岩石や鉱物を掘削する作業やコンクリートの吹き付け作業などの細かい粉じんが発生する作業を指します。道路工事や鉱物を材料にした製造業で発生することが多い作業です。
じん肺健康診断は特殊健康診断の一つであり、診断項目は以下のとおりです。
- 粉じん作業の職歴の有無
- 胸部エックス線写真
- 胸部臨床検査
- 肺機能検査
- 結核精密検査その他合併症に関する調査(胸部臨床検査の結果疑いがある場合)
出典:「じん肺、じん肺健康診断、じん肺管理区分について」(厚生労働省)
じん肺健康診断は雇用時と人事異動の際に実施する必要があります。その後は、診断の結果から決められるじん肺管理区分に応じて定期的に受診します。
じん肺の所見がない労働者に対しては3年に1回、所見が見られる労働者に対しては1年に1回の頻度でじん肺健康診断を実施しなくてはなりません。
歯科医師による健康診断
歯科医師による健康診断は、歯に有害な塩酸や硝酸などのガス、蒸気、粉じんを発散する場所に従事する労働者を対象に実施する健康診断です。たとえばメッキ工場やバッテリーの製造工場などで上記のような業務が発生します。
歯科医師による健康診断は、労働安全衛生法第66条第3項によって定期的な実施が義務付けられています。法律で定められた診断項目はありません。問診や歯と周辺の組織に損傷がないかの確認などが行われます。
労働安全衛生法で定められた健康診断の対象者

労働安全衛生法で定められた健康診断の対象者は以下のとおりです。
| 対象者 | 条件 |
|---|---|
| 正社員 | ・常時就労している |
| パート・アルバイト | ・契約期間が1年以上、もしくは契約更新により1年以上になる見込みがある(特定業務従事者の場合は6ヶ月以上) ・週の労働時間が正社員の4分の3以上である |
| 役員 | ・労働性のある業務に就いている |
| 派遣社員 | ・有害な業務に従事している |
それぞれの対象者について詳しく説明します。
正社員
正社員は業務時間や業務内容にかかわらず、常時就労している全員が健康診断の実施対象です。育児休業や療養などで休業中の労働者に対しては、健康診断を実施しなくても問題ありません。
企業は対象者に雇入時の健康診断と年1回以上の定期健康診断を受けさせる必要があります。なお、労働者の家族については実施義務の対象になりません。
参考:「健康診断Q&A」(厚生労働省)
パート・アルバイト
パート・アルバイトは以下の条件を両方満たす場合、常時雇用する労働者と見なされ健康診断の実施対象になります。
- 契約期間が1年以上、もしくは契約更新により1年以上になる見込みがある(特定業務従事者の場合は6ヶ月以上)
- 週の労働時間が正社員の4分の3以上である
二つの条件を満たす場合は正社員と同様に、雇入時の健康診断と年1回以上の定期健康診断を受けさせることが義務付けられています。
また、週の労働時間が正社員の2分の1以上であれば、4分の3を超えていなくても健康診断を実施するのが望ましいとされています。
健康診断は労働によって引き起こされる事故や病気の防止、病気の早期発見を目的とするため、契約期間が長期にわたる場合は健康診断を実施した方がよいでしょう。
参考:「パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう」(厚生労働省)
役員
支店長や工場長など労働性のある業務を兼任している役員は、健康診断の実施対象です。
一方で、代表取締役や社長などの役員は労働性がないとみなされるため、企業が健康診断を実施する義務はありません。
派遣社員
派遣社員の一般健康診断は、派遣元に実施義務があります。派遣先での一般健康診断は実施不要です。
ただし、派遣社員が高気圧業務や放射線業務などの有害な業務に従事している場合は、派遣先で特殊健康診断を実施しなくてはなりません。
参考:「派遣元が実施すべき事項」(厚生労働省)
参考:「派遣先が実施すべき事項」(厚生労働省)
労働安全衛生法による健康診断を労働者が受診しないとどうなるか

労働安全衛生法で企業に実施が義務付けられている健康診断を労働者が受診しない場合、法律違反になり企業が50万円以下の罰金を科される可能性があります。
労働者が受診を拒否した場合でも、健康診断を受けさせなければ違法になるため、健康診断の実施が必要です。
また、健康診断を受診していない労働者を放置すると、労働者やその親族から損害賠償を請求されるリスクがあります。企業には労働者の安全や健康を確保する安全配慮義務があるからです。
さらに、健康診断を受けさせなかったことが原因で労働災害が発生した場合も、責任を問われる可能性があります。
たとえば、心筋梗塞や心疾患など、健康診断を行っていれば防げた発作で従業員が倒れた場合、安全配慮義務を怠ったとみなされ、企業の責任が問われることになるでしょう。労働者の健康を守るためにも、健康診断を受診しやすい環境を整えることが大切です。
参考:「労働安全衛生法」(e-GOV法令検索)
労働安全衛生法による健康診断を拒否された際の対処方法

法律違反にならないよう、労働者に健康診断を拒否された際の対処方法を検討しましょう。労働者に健康診断の受診を促す方法として、以下が挙げられます。
- 労働者に健康診断を受診する義務があることを説明する
- 健康診断の受診を拒否した場合の罰則を就業規則で定める
- 健康診断を受診しやすい環境にする
それぞれ解説します。
労働者に健康診断を受診する義務があることを説明する
社員に健康診断の受診を拒否されたら、まずは労働者は健康診断を受診する義務があることを伝えましょう。
労働安全衛生法では、労働者に対して健康診断を受ける義務を定めており、労働者は健康診断の受診を拒否できません。
ただし、労働者に対する罰則は法律で定められていないため、義務があることを説明しても受診しない可能性があります。
健康診断の受診を拒否した罰則を就業規則で決める
健康診断の受診を拒否された場合の対策として、減給や懲戒免職などの罰則を就業規則で決めておくのも一つの手です。
あらかじめ周知しておくことで、万が一社員が健康診断の受診を拒否した場合でも説得しやすくなるでしょう。
ただし、罰則を強調して受診を強要すると、相手からパワハラと受け取られる可能性があります。社員を説得する際は、伝え方に十分注意しましょう
健康診断を受診しやすい環境にする
職場環境が原因で拒否されるケースもあるため、健康診断が受診しやすい環境を整えることも大切です。
就業時間内で健康診断を受診できるようにする、職場や従業員の自宅近くで受診できるようにするなど、従業員の負担にならない対応方法を検討しましょう。
参考:「労働安全衛生法」(e-GOV法令検索)
労働安全衛生法にもとづいた健康診断を実施しよう

労働安全衛生法第66条にもとづき、企業は労働者に対して健康診断を実施することが義務付けられています。違反した場合の罰則も定められているため、労働者に健康診断の受診を促しましょう。
また、健康診断の結果を適切に管理することも企業には求められます。健康診断を実施する対象者が多いと、管理業務が煩雑になるかもしれません。
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