ハラスメント窓口とは? 義務化された背景や意味がないといわれてしまう理由を紹介

「ハラスメント窓口とは、具体的に何を行う窓口なのだろう」「ハラスメント窓口を設置すれば、ハラスメントは減るのだろうか」
社内の相談体制の整備を進めるにあたって、上記のような疑問を抱える人事労務担当の方は多いでしょう。
ハラスメント窓口とは、従業員のハラスメント相談に対して事実確認やその後の処理を担当する窓口のことです。近年は社内のハラスメントだけではなく、カスタマーハラスメントへの対応も求められ、ハラスメント窓口の役割が多様化しています。
この記事では、ハラスメント窓口の役割や設置義務化の背景、実務に落とし込むための具体的なポイントを解説します。この記事を読むことでハラスメント窓口について理解し、窓口の設置や対応マニュアルの作成に着手できるようになります。
ハラスメント窓口とは?

ハラスメント窓口とは、従業員からのハラスメント通報を受け付けて、適切な処理を行うために社内外に設置される相談窓口のことです。
ハラスメント窓口では、次のようなことが行われます。
- ハラスメントの相談受付
- 相談内容の事実確認
- ハラスメントが事実だと認められる場合の行為者への処分の検討
- 被害者のケア
- ハラスメントが発生しないような人材教育や環境づくり
ハラスメント窓口では、ハラスメントを受けたと感じた従業員からの相談を受け付け、その事実を確認し、ハラスメントが認められる場合には行為者と被害者への措置を講じます。
ハラスメントは行為者が無自覚な場合や、相談者の主張が主観的である場合なども考えられるため、窓口担当者は事実から公正な判断をする重要な役割を果たします。
また、ハラスメント発生時だけではなく、ハラスメントが発生しない環境づくりもハラスメント窓口の役割です。研修や社内教育を通じて、従業員に高いモラル意識を醸成することもハラスメント窓口に求められます。
ハラスメント窓口の設置が義務化された背景
2020年当時、ハラスメントやいじめ嫌がらせの被害状況が深刻だったことから、パワハラ防止法が改正され、厚生労働省主体でハラスメント窓口設置が義務化されました。
厚生労働省が令和3年度に実施した調査では、総合労働相談コーナーへの相談のうち「いじめ・嫌がらせ」に関するものが多く、10年連続最多でした(※1)。
相談件数全体が約35万3千件のところ、約8万6千件(約24%)がいじめ・嫌がらせに関するもので、ハラスメント対策をすることは喫緊の課題でした。また、1990年代ごろから国際的にハラスメントへの関心が高まっていたことも、日本のハラスメント対策が進められた背景と考えられます(※2)。
(※1)「『令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況』を公表します」(厚生労働省)
(※2)「労働政策研究報告書 No. 216 諸外国におけるハラスメントに係る法制」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 )
ハラスメント窓口設置の効果

ハラスメント窓口設置の効果としては、次のようなことが期待されます。
- ハラスメントの早期発見と撲滅
- 事業所のモラル向上や働きやすさの向上
- 従業員の安心感や会社にへのロイヤリティ向上
「ハラスメントを受けているけど、どこに相談すればいいのかわからない」と悩む従業員の存在は、どの企業においても考えられます。従業員がハラスメントを相談しやすい環境ができれば、これまで明るみに出なかったハラスメントの問題を早期発見し撲滅できるでしょう。
ハラスメントへの意識やモラルの高い事業所は働きやすく、企業に対して安心感があることで従業員からのロイヤリティが向上し、従業員の離職率低下の効果も期待できます。従業員の長期雇用が実現すれば、副次的に生産性や売上の向上効果も望めるため、ハラスメント窓口設置の効果は大きいです。
ハラスメント窓口設置における人事労務の対応

ハラスメント窓口設置における人事労務の主な対応は次の3点です。
- ハラスメント窓口の対応方針を決めて周知する
- 担当者を決めて窓口を設置する
- 相談を受け付けたらマニュアルに沿って対応する
それぞれ詳しく解説します。
1. ハラスメント窓口の対応方針を決めて周知する
ハラスメント窓口設置に際し、最初に行うべきは対応方針の決定と周知です。
ハラスメント窓口の設置を決定したら、企業としての対応方針を決めて、トップや人事労務からメッセージを発信することで従業員に周知しましょう。
たとえば、次のようなことを従業員全体に周知すべきです。
- 企業としてハラスメントを重要な問題として認識している
- 一切のハラスメントは許されないものである
- 会社全体の問題としてハラスメントに対応していく
- ハラスメントを受けたら設置する窓口に相談をしてほしい
- 相談者に不利益が発生せず、プライバシーは厳重に守られる
上記のような内容を全従業員が正しく認識するまで繰り返し周知することで、全従業員のハラスメントに対する意識改革を行いつつ、窓口設置の意義を従業員に理解してもらいます。
周知を進める間にも規程やマニュアルを作成し、窓口設置の準備を進行しましょう。
2. 担当者を決めて窓口を設置する
規程やマニュアルを整備してハラスメント相談に対応する準備ができたら、担当者を決めて窓口を設置しましょう。
担当者は窓口設置前にハラスメント窓口の対応方針を正しく理解して、ハラスメント研修や傾聴スキル研修などを受けることが望ましいです。
ハラスメント窓口は対面やメール、電話、手紙の投書などさまざまな方法で受付ができるとよいでしょう。手段に自由があれば相談者は匿名性を守ったまま、人に話しづらいハラスメントに対する内容を安心感をもって相談しやすいからです。
窓口の対応環境が整ったら、あらためて従業員への周知が必要です。ハラスメントへの対応方針と同様に、窓口の存在もすべての従業員が認識していなければならないと考え、窓口の存在を従業員全員が認知できるまで繰り返し周知しましょう。
3. 相談を受け付けたらマニュアルに沿って対応する
ハラスメントの相談を受けたら人事労務や担当者はマニュアルに沿って適切に対応します。
ハラスメント被害者の相談を聞くときは、その場で判断をせずに傾聴することを重視して相談を受けましょう。
この時点では対応者の判断を挟まずに、相談者の状況を十分に理解し受け入れなければなりません。
相談内容を受け付けたら、事実関係を確認するため社内調査を実施します。社内調査時にも相談者のプライバシーは厳重に守られなければなりません。調査の過程で相談者が誰なのか明らかになることはあってはならないため、迅速、かつ慎重に調査を進めましょう。
事実関係が明らかになり、ハラスメントが事実だったと結論が出たら、ハラスメントの行為者の処分や相談者のケア方法などを検討します。
事前に就業規程によってハラスメントの罰則規定が定められていれば、処分に対して不満が出ることは少ないでしょう。
ハラスメントの行為者と被害者をそれぞれフォローして、再発防止やその後の影響を最小限に抑えることもハラスメント窓口担当の役割です。
ハラスメント窓口の対応マニュアルの作り方

ハラスメント窓口の対応マニュアル作成の際は、厚生労働省が公開している「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」を参考にしましょう。
このマニュアルは具体的な規程やマニュアルの例を公開しており、自社の状況に合う部分はそのまま活用できるのがメリットです。
たとえば、ハラスメントに対するルールの策定では、罰則規定や適用条件、処分の内容を具体的な規定の例文付きで紹介しています。他にも、ハラスメント実態調査アンケートの項目例やハラスメント防止教育の方法、ハラスメントに対する会社の姿勢を周知する方法や周知文例なども公開しています。
この厚生労働省のマニュアルにのっとれば、一通りのハラスメント規程やマニュアルができるため、ハラスメント窓口対応を簡便に開始できるでしょう。
ハラスメント窓口を社内に置くメリット・デメリット

ハラスメント窓口は、外部委託する方法と社内で対応する方法があります。このうち、社内にハラスメント窓口を設置するメリットとデメリットは以下の通りです。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・費用がかからない ・自社にノウハウが溜まり、相談対応の質が向上する ・相談受付から社内対応までを一連の流れとしてスムーズに実施できる | ・相談した事実が加害側に伝わることを恐れて窓口を利用してもらえない ・経営層に近い上層部に関する相談を受けられず、経営上の問題を解決できない ・設置当初は対応をスムーズに進められない |
外部に依頼する場合と比べて、社内窓口は設置コストの安さや対応のスムーズさの面で優れています。
一方で、社内窓口は利用者視点で存在が形骸化し、設置の意味がなくなってしまうリスクに向き合う必要があります。
ハラスメント窓口を外部委託するメリット・デメリット

ハラスメント窓口を社内対応ではなく、外部業者に委託するメリットとデメリットは下表の通りです。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・ハラスメント被害者が専門家に直接相談できる ・従業員が窓口を気軽に利用しやすく、ハラスメント問題を解決しやすい環境が作れる ・経営層に近い内容でも安心して相談できるため、窓口設置の効果を感じられる | ・費用がかかる ・自社に対応ノウハウが溜まらず、対応品質の向上が見込めない ・外部業者と人事労務間のやり取りが必要になり、問題が解決するまでに時間がかかる |
外部業者に委託するメリットは、被害者が専門家と直接つながれる点です。
社内窓口では誰に伝わるかわからず相談しづらいハラスメントでも、社外の窓口なら安心して相談できる場合があります。
一方で社内窓口よりも費用がかかる点や、自社のみでハラスメント対応を完結させられず、スムーズに問題を解決できない点でデメリットを感じることもあります。
ハラスメント窓口は意味がないといわれる理由

ハラスメント窓口は企業側が設置するもののため、従業員から信用されず、「意味がない」との声が挙がりがちです。
ハラスメント窓口に意味がないといわれる主な理由は、次の通りです。
- そもそも窓口の存在や利用方法を知らないから
- 相談しても解決のための対応をしてもらえないから
- 減給や降格、配置換えなどの報復人事が行われるから
窓口の存在や利用方法が周知されていなければ、従業員は相談先がないと感じ、会社がハラスメント対策に無関心だと誤解されがちです。実際に「窓口の存在を入社して数年知らなかった」という声もあります。
また、相談しても解決のために対応してもらえないなら、会社が形式的に設置しているだけで意味がないと思われている可能性も高いでしょう。
さらに、過去に相談した従業員がその後異動させられたといった事例などがあると、「報復があるのでは」と不安を抱かせてしまいます。
意味がないといわれない窓口づくりのためにも、窓口の存在や利用方法を繰り返し周知して、徐々に認知と信頼を獲得していきましょう。
カスタマーハラスメントへのハラスメント窓口での対応

近年、ハラスメント窓口では、社内のハラスメント対応に限らず、カスタマーハラスメントにも対応が求められるようになってきています。
厚生労働省が発表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、企業が従業員を守るために、ハラスメント窓口に対してカスタマーハラスメントへの対応も兼務することを推奨しています。
次のような悪質なカスタマーからのクレームや要望に対して、従業員ではなくハラスメント窓口が一貫して毅然と対応することで、従業員の心身の安全が守られ健康経営が実現できます。
- 繰り返しの電話対応や店頭への居座りによって長時間従業員が拘束される
- 理不尽な要望を何度も電話で伝えられる、繰り返し面会を求められる
- 大きな怒鳴り声で対応を求められる、侮辱的発言で人格否定や名誉を毀損される
経済産業省の健康経営度調査票にも、カスタマーハラスメントへの対応が項目として記載されています(※)。健康経営を目指す企業はカスタマーハラスメントへの対応も十分に行いましょう。
(※)「参考資料: 令和6年度健康経営度調査票(素案)」(経済産業省)
ハラスメント窓口を設置して安心して働ける環境を整えよう
ハラスメント窓口とは、従業員が社内外問わずにハラスメントを受けた場合に、相談を受け付けて事実確認を行って適切な処理をする窓口のことです。ハラスメント窓口を設置して、従業員が安心して働ける環境を作れば、長期雇用が可能になり継続して事業を発展させられます。
ハラスメント窓口の設置義務に対して、次のような対応をする必要があります。
- ハラスメント窓口の対応方針を決めて周知する
- 担当者を決めて窓口を設置する
- 相談を受け付けたらマニュアルに沿って対応する
ハラスメント窓口の設置や従業員へのハラスメント防止教育を行い、従業員が安心して働ける環境整備を行いましょう。
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