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運動は薬!働く人を元気にする薮野先生の『運動療法処方箋』とは?

2025.7.3

働く私たちにとって、生活習慣病やメンタルヘルスは身近な病気になっています。働く人の約6割が健康診断で何らかの所見ありといわれる中、これらの疾患に対して「運動療法処方箋」という観点から取り組むケースが注目されています。薬だけでなく運動まで含めたトータルの治療を目指すStay Fit Clinic(ステイフィットクリニック)の薮野淳也先生に、そもそもなぜ現代人が体調を崩しやすいのかや、働く人のコンディショニングについて産業医・労働衛生コンサルタントの野口裕輔先生がインタビューします。

インタビュイー
薮野 淳也(やぶの・じゅんや)
株式会社なべふぁ 代表取締役
Stay Fit Clinic院長
医師・産業医・認定健康スポーツ医

インタビュアー
野口 裕輔(のぐち・ゆうすけ)
エムスリー株式会社
医師・産業医・労働衛生コンサルタント
産業衛生専門医・健康経営エキスパートアドバイザー

生活のベースを整えることが心身の乱れを抑える

──医療から健康施設の運営までさまざまなことをされている薮野先生ですが、これまでの活動の概要を伺ってもよろしいでしょうか。

薮野先生:まず、自己紹介する際に私の本職は産業医であることをお伝えするようにしています。主に都内のIT企業での産業医業務を行っていまして、やることは健康診断やストレスチェック、休職者対応を通した従業員の健康管理が主になります。産業医業務を通して問題意識を持っているのはメンタルヘルスです。メンタル不調を持つ方はなかなか生活リズムが整わないことが多く、そこに対して産業医面談で「しっかり生活リズムを整えてください、ご飯を食べてください、適度に運動してください」と伝えるだけの介入に、限界を感じていました。

そもそも働くにあたって、月曜日から金曜日まで、9時から5時(17時)まで働く生活リズムと体力をつけることは誰しもにとって必要なことです。しかし、実際にはなかなか整わない人も多く、彼らに何を提供すべきなのかが悩みのタネでした。その一つの答えとして、コンディショニング予防といった観点を取り入れた複数の活動を行っています。基本の構造は、産業医業務とクリニックでの治療に、アメリカのストレングス・コンディショニングプログラムである『CrossFit(クロスフィット)』のフィットネスジムを加えた三角形を作り、そこをぐるぐると回すことで、働く人のパフォーマンスを挙げられるようにしています。『Stay Fit Clinic(ステイフィットクリニック)』と『クロスフィット青山』はともに2023年の4月にオープンしているので、ちょうど3年目に入りました。

──基本的にオフィスワーカーのクライアントが多いと思うのですが、彼らが元気に働くためにコンディショニングが重要というのはとても共感できます。産業医、クリニック、フィットネスと総合的にアプローチするというのは面白い試みですね。薮野先生がコンデシショニングの大事さに気づいたキッカケはなんですか。

薮野先生:気づきのキッカケは、クリニックを開業する前に働いていたビジネスパーソン向けの心療内科です。そこに来る患者さんが「そもそも働けますか?」と言いたくなるような状態の方が多数見受けられました。そういった方々は、土日も疲れ切って寝ていたり、夜眠れていなかったりと生活のベースが崩れてしまっています。それが積み重なることでフィジカル的には健康診断結果が悪化していたり、メンタル的に見ても休みが必要なほどになっていたりしていました。そういった事例を見ている中で、「そもそもベースから整えていかなければどうしようもない」、という想いが高まっていきました。

──働くためのベースとなるコンディションを整えようと試みるのは素晴らしいですね。

薮野先生:患者さんや働く方々のベースに介入できるかどうかが行動変容に繋がるかどうかを分けると思うのですが、医療従事者側や産業保健側から介入できる方法を具体的に提示できていないというのに問題意識を持っていました。一気通貫的なサービスがあれば何か変えられるんじゃないかと思い、試行錯誤しているというのが正直なところです。

──先生が産業医をされている企業で不調者が現れた場合、運動という観点で「フィジカルな活動を高めていきましょう」や、臨床的な観点から「すでに治療レベルになっているので、受診しましょう」という形で、産業医活動と繋げてらっしゃるのでしょうか。

薮野先生:産業医ークリニックーフィットネスジムの三角形の行き来は比較的自由に行いますが、産業医先からクリニックには直接送っていません。「運動しにきたらどうですか」というお誘いや、クリニック側から向こうへ運動しにいってくださいというケースが主ですね。また、ジム側で不調を感じ取った場合には、「クリニックで少し調整しませんか」とお話する場合もあります。私が全て関わっていますので、随時判断しながら行っています。

──そのようにトータルで話が広がっていくと、うまく関わった人がどのフェーズにおいても元気になっていくという構造になりますね。

薮野先生:ジムで行っているクロスフィットは基本的にグループレッスンでして、コミュニティをつくり易くなっています。普段からカラダを動かす方はハイパフォーマーが多かったり、しっかりとした習慣を持っていたりすることが多いですが、コミュニティでそういった方たちと出会って刺激を受けることで、引っ張られて元気になっていくというケースも目の当たりにしていますね。

運動を処方する「運動療法処方箋」とは?

──運動の話が出ましたのでさらに伺っていきたいのですが、先生は『運動療法処方箋』を出されていて、それをベースに整えていく手法を取られていると伺いました。その仕組みを教えていただけますか。

薮野先生:このクリニックを開院する際に「医師の私が運動に取り組むのならば、どんな方法や可能性があるのだろうか」と考えて、出てきたのが「運動療法処方箋」でした。見つけたとき、「私がやりたいことはこれだ」、と強く感じたのを今でも覚えています。どういうものかというと、医師が患者の疾患や目標に合わせて治療につながる運動を指示する処方箋になります。運動療法処方箋を出すには日本医師会認定健康スポーツ医や日本心臓リハビリテーション学会認定医・心臓リハビリテーション指導士資格を持つ運動生理学に明るい医師が在籍していることです。対象は疾患に対し運動によって効果が得られると認められるものになります。運動療法処方箋は専門医としてしっかりと経過を見ていくことも可能ですし、健康スポーツ医として、働く人の体調不良や健康診断の数値改善に運動を提案できるというのが魅力です。

処方箋の出し方としては、疾患に対して、週何回であったり、1日何分運動しましょう、その際にはこういったことに注意してください、といった内容を記載します。これを指定運動療法施設に認定されているジムなどに持っていき、そこで健康運動指導士と健康運動実践指導者が、その人向けにプログラムの作成と継続を促す形になります。私は健康運動指導士と健康運動実践指導者の両方を取得していますし、隣のクロスフィット青山も指定運動療法施設に指定されていますので、ワンストップで診られるのもメリットです。

──なるほど。運動をすることを処方箋として出せるのですね。

薮野先生:こちらはすでにデータやエビデンスでも出ていますが、現在働く人の約6割が健康診断で何らかの所見ありとされています。そういう時代ですから、予防の観点としてはこちらから処方箋として運動を推奨し、専門的な知見から安全安心に効率よく行ってもらうことが大事になると思っています。また、運動療法処方箋の一番のメリットは、処方箋に従って運動した場合、そのジムの会費が医療費扱いになることです。つまり医療費控除が受けられます。運動したいけど何をしていいかわからない、お金がかかることはしたくないと思っている方にとって、モチベーションを上げるきっかけになるのではと思っています。

──運動療法処方箋を出すタイミングで検査などは必要になってくるのでしょうか。

薮野先生:疾患によりますが、基本的には健康診断の数値を使用します。血圧や心電図、エコーなどを取ったりするケースもありますが、そこは適宜最適なものを選択することになります。加えて、主治医のところで定期的にフォローすることが条件になっています。つまり、運動療法を続けながら主治医のところで検査を続け、情報連携し合うことが大事になります。

──対象疾患などは決まっているのでしょうか?

薮野先生:運動が有効とわかっている疾患に対して処方箋を出せます。フィジカル関連ですと、いわゆる生活習慣病、高血圧や脂質異常症、循環器系の疾患などには処方することが可能です。メンタルヘルスに関しても運動が有効なことはわかっていますので、不眠症やうつ症状がある方などに効果的な運動を勧めて、予防・改善をはかることができます。現在運動療法処方箋はリハビリ的な使われ方をされていることが多いのではと思いますが、私は治療側に重点を置いた使い方をしています。

私のクリニックは働く人のためにつくったものですので、訪れる人もほぼビジネスマンが中心です。そういった方ですと、過重労働などはもちろんですが、人間関係やお客様との関係などで悩まれている方も多いです。生活習慣病に関連する数値が悪い方も多いので、そういった方々の症状を見極め、しっかりとした対策につながる運動療法処方箋を出せるのは、治療だけでなく予防にも役立つと思っています。

──幅広い疾患に使用することができるのですね。

薮野先生:東京ですと指定運動療法施設がそこそこありますが、なかなか運動療法処方箋をだす医師がいないので、「処方箋をください」と診察を受けに来られる方が結構います。『クロスフィット青山』ですと、いらっしゃるのはほとんどが企業に務めるビジネスマンの方で、健康診断結果などで何らかの数値を指摘されたことをきっかけに足を運ばれています。そういう方がだいたい3〜4割でしょうか。
多くの方が「運動療法処方箋」を『Stay Fit Clinic』で初めて知って、メリットを理解された上で健康改善に取り組んでいます。

今後の課題としては、「運動療法処方箋」の知名度を上げていくことと、その正しい使い方をどう伝えていくかという部分ですね。この情報を知っているか知らないかによって不利益が出てしまうのも問題ですし、一方で悪用されないようにしっかりと見定めることも大事になってくると思います。

エビデンスのある運動が心身を整えるきっかけに

高血圧、脂質異常といった慢性疾患だけでなく、メンタルヘルスに対しても運動の有用性が指摘されており、薮野先生が活用されている「運動療法処方箋」は、指定施設も増えていることから今後ますます注目される可能性があります。次回は運動療法処方箋のメリットとカギとなる継続性についてお話を伺います。

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