健康経営における損失額とは?プレゼンティーズムで行う健康経営の見える化

健康経営とは、従業員の健康推進を経営的な目的として定め、健康課題を解決することで、従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法のことを指します。近年の健康経営では、より経営としての視点を強めるため、健康経営の効果の見える化を推進する方法として業務パフォーマンスの評価・分析が推奨されています。健康経営における主要な指標としては、「アブセンティーズム」、「プレゼンティーズム」「ワークエンゲージメント」の3つを使用することが多いですが、今回は特に注目されている「プレゼンティーズム」の理解と計算方法を通し、普段の業務で失われている生産性がどれくらいの金額となるのか、それが健康経営によってどう取り戻せるのかについて、具体的な数値を使いながら解説します。
プレゼンティーズムは勤務中の健康損失を測る指標
「プレゼンティーズム」は「アブセンティーズム」とともに健康経営で重視されている健康指標です。「アブセンティーズム」が欠勤や休職、早退などによって、仕事が行えていない状態での損失を表すのに比べ、「プレゼンティーズム」は、出勤していても体調不良による労働意欲や集中力の欠如から、本来のパフォーマンスが発揮できない状態を示す指標になっているのが特徴です。従前の産業保健の考え方などからは、生産性がゼロになってしまうアブセンティーズムを重視して対策することが重要と考えられてきましたが、ここ最近の健康経営の広がりにより、目に見えないパフォーマンスの低下であるものの、不調が長引くことによる損失の累積の大きさを考慮すれば、企業に与える影響は小さくないということで、「プレゼンティーズム」に注目が集まっているのです。企業の健康関連総コストにおいて、プレゼンティーズムによる損失コストがアブセンティーズムの10倍以上を占めているという発表資料もあります。
「プレゼンティーズム」の主な原因は健康診断などで検出される生活習慣病や一般疾患以外にも、偏頭痛や肩こり、眼精疲労、月経不調、更年期障害など、生活に根付いた疾患も多く挙げられています。生産性の低下という観点から見た際に、これらの疾患は、大きく影響を与える要素として考えられているからです。近年では、国内の罹患者が相当数に上る花粉症や不眠・睡眠障害なども大きな要因の一つと言われるようになっています。
プレゼンティーズムによる具体的な損失額とは
プレゼンティーズムは疾患の関係上、全て数値に表せるわけではないため感覚的な部分も多いのですが、さまざまな研究により、その損失割合を計算する方法が研究されています。ここでは経産省が例示している代表的な5つの測り方をご紹介します。
WHO-HPQ
WHOで世界的に使用されている「WHO 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙」を用いて評価を行います。「勤務時間はどれくらいか」「身体的・精神的な理由で休んだことがあったか」「仕事の出来はどれくらいだったか」など、全12問からなる質問用紙で評価を行います。世界的に広く活用されており、海外のエビデンスも豊富な指標です。無償での利用が可能ですが、RIOMHへの入会が推奨されています。
SPQ(東大1項目版)
東京大学ワーキンググループで開発され、研究目的や商用目的で無料利用できます。病気やケガがないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事をパーセンテージで評価します。
WLQ(Work Limitations Questionnaire)
WLQは健康問題による仕事上の制約や、生産性の低下率を測定できる指標です。「時間管理」「身体活動」「集中力・対人関係」「仕事の結果」の4つの尺度から全25問で構成されています。利用にはSOMPOヘルスサポートへの申し込みが必要で、有料である点にも注意が必要です。
WFun(Work Functioning Impairment Scale)
産業医科大学で開発された、健康問題による労働障害を測定する調査票。7つの設問からなり、合計得点(7~35 点)で評価を行います。利用には、SOMPOヘルスサポートへの申し込みが必要です。
QQmethod
健康問題を含む尺度のため、プレゼンティーズムの原因を特定しやすいのが特徴です。原因を可視化することで施策の検討がスムーズに行うことができます。持病などの健康問題や、仕事に支障をきたすような体の症状があるかを回答した後、症状がある場合は「仕事に一番影響を及ぼす健康問題」「過去3か月で何日間症状があったか」「症状があるときの仕事量」「症状があるときの仕事の質」の質問に10段階で答えることで評価を行います。無料で利用可能です。
これらは、短期的アウトカム指標とされており、この数値をもとに「健康関連総コスト換算による評価」と「パフォーマンス低下度による損失額算定評価」の2つの評価方法へとつなげることで、健康経営の効果や健康コストを算出することになります。
ここでは経済産業省が提供する「企業の「健康経営」ガイドブック〜連携・協業による健康づくりのススメ(改訂第1版)」をもとにご紹介していきます。
健康関連総コスト換算による評価
下記の5項目の数値を算出し、それらを合計して生産性損失コストの評価を行う方法です。実際に支払われている金額から算出するため、どこに、どれだけの費用がかかっているのか見やすいのが特徴です。
- 医療費(総額)
- 傷病手当金(事業主補填金含)
- 労災補償費
- アブセンティーズムの日数×総報酬日額
- プレゼンティーズム損失割合×総報酬年額(標準報酬年額×12か月+標準賞与)

パフォーマンス低下度による損失額算定評価
こちらはパフォーマンスに注目した評価方法です。パフォーマンスの低下を100%からどれだけ下がっているのか、推定の損失額を算出します。こちらの場合は、どの問題で損失が生まれているのかが分かりやすいという特徴があります。
計算に用いるのは2つの項目です。
- 1人1日あたり人件費(賞与・各種手当・法定福利費等)
- パフォーマンス低下率(※QQmethod)
ここでは「①×②×有症状日数=損失額」で計算します。

健康経営を進めていく中で、金額面から考えるのか、課題から考えるのかによって使う指標は変わってきます。ですが、双方で評価することで、より具体的な施策に結びつきますので、健康経営を評価するだけでなく、推進する意味でもこの評価方法を試してみるのがよいでしょう。
損失をどう取り戻したかは、施策実行率などで
プレゼンティーズムの予防・改善に取り組む際には、従業員個人を対象とした対策に加えて、職場環境への対策など様々な方法が考えられます。対策をより具体的にするために、プレゼンティーズム測定に合わせて定期的なタイミングでライフスタイルアンケートなどを行い、従業員の間に潜む健康課題を見極めるようにしましょう。
改善に向けては、各施策において、対象の従業員数、ペインスケールなどを用いた課題の数値化、改善後のアンケートなどを行い、評価可能な状態にしておくことが大事です。これらを実施・計測しておくことで、次回プレゼンティーズム測定時にどの施策がどれだけ効果的だったか、相対的に評価することも可能になります。企業の「健康経営」ガイドブックでは、前述の通り、課題ごとに発生する平均予想金額も示しているので、これらを改善数値に当てはめるだけでも、より具体的に改善額をイメージできるようになります。
健康経営に取り組む際、現在の損失と改善程度を明確にするのは、経営層の理解を推進する上でも大切です。健康経営を始める際や、年初などの区切りにプレゼンティーズムを測定するようにしましょう。
<参考URL>
- 企業の「健康経営」ガイドブック〜連携・協業による健康づくりのススメ(改訂第1版)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei_guidebook.html - 健康投資管理会計ガイドライン
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkoutoushi_kanrikaikei_guideline.pdf
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