【千の提言 #番外編】従業員が主役になるウェルビーイング経営でホワイト500を再び! 「やらされ感」から「自分事」化への仕掛け(PHONE APPLI)

「従業員の健康を願って制度を整えても、利用するのはいつも同じ顔ぶれ……」「健康イベントを企画しても、どこか「やらされ感」が漂ってしまう……」。健康経営を進める中で、多くの人事労務担当者が一度はこのような壁に直面した経験があるのではないでしょうか。どうすれば、健康や働きがいへの取り組みを、一部の意識の高い従業員のものから、全従業員の「自分事」へと広げていけるのでしょう。そのヒントを探るべく、今回は「ウェルビーイング経営」を先進的に実践する株式会社PHONE APPLIを訪ねました。同社の取締役/コーポレート統括として組織文化の醸成を担う松本様、ウェルビーイング戦略を牽引するCWO(Chief Well-being Officer)の藤田様、ヒューマンサクセス本部で健康経営の実務を推進する宮城様に、従業員一人ひとりが主役となる組織づくりの秘訣をじっくりと伺いました。
株式会社PHONE APPLI
「すべての企業をウェルビーイングカンパニーにアップグレードすること」を目指し、組織を強くするコミュニケーションポータル「PHONE APPLI PEOPLE」等クラウドサービスの企画・開発・販売をおこなっている企業です。
健康経営優良法人 受賞・認定歴
2018年度:健康経営優良法人 大規模法人部門・ホワイト500認定
2019年度:健康経営優良法人 大規模法人部門・ホワイト500認定
2020年度:健康経営優良法人 大規模法人部門・ホワイト500認定
2021年度:健康経営優良法人 大規模法人部門・ホワイト500認定
2022年度:健康経営優良法人 大規模法人部門・ホワイト500認定
2023年度:健康経営優良法人 大規模法人部門・ホワイト500認定
2024年度:健康経営優良法人 大規模法人部門認定
松本 智(まつもと・さとし)
取締役/コーポレート統括
藤田 友佳子(ふじた・ゆかこ)
執行役員CWO
兼ウェルビーイングデザイン部 部長
宮城 七奈(みやぎ・なな)
ヒューマンサクセス本部
ヒューマンキャピタル ヘルスデベロップメント
なぜ「健康」ではなく「ウェルビーイング」なのか? 言葉に込めた深い想い
──本日はありがとうございます。早速ですが、PHONE APPLI様といえば「ウェルビーイング経営」の先進企業というイメージがあります。多くの企業が「健康経営」という言葉を用いる中で、あえて「ウェルビーイング」という言葉を重視されているのは、どのような背景があるのでしょうか?
藤田様:PHONE APPLIは初期から「健康経営」に取り組んできた企業ですが、深く掘り下げるうちに、この言葉が身体的な健康、例えば食事や運動といったテーマに偏りがちになることに懸念を抱いていました。これらは非常に大切な要素ですが、それだけでは健康に関心の薄い層には響きにくいと感じていました。結果的に、一部の従業員には「自分にはあまり関係ない」と感じさせてしまう壁があったのです。
──おっしゃるとおり、「自分には関係ない」と感じる従業員が多いケースは少なくありません。
藤田様:そこを解消すべく「ウェルビーイング」という言葉を使おうという議論は、私が入社した2019年頃から始まりました。身体的な健康(フィジカル)だけでなく、精神的な充足(メンタル)、社会的な繋がり(ソーシャル)まで含めた、より広い幸福を意味するこの言葉であれば、多くの従業員が自分事として捉えてくれるのではないかと考えたからです。例えば、人との良好なコミュニケーションも、仕事へのやりがいも、すべてがウェルビーイングに繋がります。このように捉えることで、健康への取り組みは、一部の人のための特別な活動ではなく、全従業員の日常業務や働き方そのものと地続きになるのです。
この思想の背景には、当社のビジネスモデルの転換が大きく影響しています。かつては個別の案件ごとに売上が変動するフロービジネスでしたが、継続的な顧客との関係性が収益基盤となるストックビジネスへと移行したのです。これは、従業員が長期的に心身ともに健康で、高いパフォーマンスを発揮し続けることが、会社の持続的な成長に不可欠であることを意味しています。
松本様:まさしくその通りです。従業員のコンディションが不安定では、お客様に継続的な価値を提供し続けることはできません。従業員のウェルビーイングは、もはや福利厚生ではなく、私たちの事業の根幹を支える経営戦略そのものです。だからこそ、経営としてもこの取り組みに深くコミットしています。
藤田様:言葉の定義を丁寧に問い直し、それを経営の根幹と結びつける。このぶれない軸こそが、私たちの数々の施策に一貫性と説得力をもたらしているのだと思います。
「見える化」がコミュニケーションを生む。実務担当者が語る現場での実践
───「ウェルビーイング」という言葉への転換が、従業員の意識を変える第一歩だったのですね。その思想を、具体的にどのような施策に落とし込んでいるのでしょうか。特に従業員の「自分事」への意識を促す上で、効果的だった取り組みがあれば教えてください。
宮城様:現場の最前線で施策の企画・実行を担う立場として、特に効果を感じているのが、自社プラットフォーム「PHONE APPLI PEOPLE」を活用した「健康目標宣言」です。これは、全従業員が自身の健康目標をプロフィール上で公開する、非常にシンプルな仕組みです。
この仕組みで最も大切にしているのは、目標を管理・評価することではなく、あくまでコミュニケーションのきっかけとして機能させることです。「〇〇マラソン完走!」といった本格的なものから、「毎日〇〇を食べる」といった日常的なものまで、目標は多岐にわたります。それを見た他の従業員から「私も同じ趣味なんです」と会話が弾んだり、マネージャーが1on1で「目標、順調?」と声をかけたりする。仕事の話だけでは見えてこない、その人のパーソナリティに触れるきっかけになっているのです。

──目標を全社に公開するというのは、少しハードルが高そうに感じますが、そのあたりはいかがでしょうか。
松本様:面白いのは、そのオープンな文化です。「目標達成できませんでした」といった報告も許容され、むしろそれが新たな会話の種になることもあるんです。たとえ失敗しても、それをオープンにし、自身の目標達成に向かって努力していくことを、経営として奨励している文化があることが、心理的安全性の高さに繋がっているのだと思います。目標を達成すること自体も素晴らしいですが、そのプロセスを共有したり、うまくいかない時に頼ったりできる関係性があること。それこそが、会社という共同体を強くするソーシャル・ウェルビーイングの本質であり、経営としても非常に重要視している点です。
宮城様:そうなのです。だからこそ、私たち実務担当としては、このツールが「監視されている」と感じられないよう、あくまでポジティブなコミュニケーションが生まれるような使い方を促すことを意識しています。この仕組みを通じて、従業員同士がお互いの健康やプライベートに関心を持ち、応援し合う。このような温かい関係性が、組織のウェルビーイングの土台になっていると感じます。
「制度」を「文化」に変えていくPHONE APPLI流「空気感」の作り方
──ツールの活用と、それを支える心理的安全性の高い文化が鍵なのですね。その他にも、PHONE APPLI様にはユニークな制度や文化があると伺いました。制度が形骸化せず、文化として根付くためには何が必要なのでしょうか。
藤田様:制度設計の段階で意識しているのは、ポジティブな動機づけを促すことです。たとえば、以前は無給の生理休暇はありましたが、女性従業員にアンケートをとった結果、生理休暇という名称では取得しづらくほとんど取得されていないという実態が明らかになりました。そこで、「YOU休」という名称に変更しました。「あなた(YOU)のための休み」と「有休」をかけ合わせています。これによって生理や体調不良時にも気兼ねなく休みを取りやすくなり、実際に取得率も向上しました。ネーミング一つで、従業員の受け止め方は大きく変わるのです。
松本様:当社ではさまざまな制度を導入していますが、その制度を文化へと昇華させるのは、現場の「空気感」であり、経営層の姿勢が重要だと考えています。特に男性育休は、「あの人が取得したなら、自分も取得していいんだ」という空気が生まれ、今では育休の長期取得が、ごく自然な選択肢となっています。経営としても、こうした動きを積極的に後押ししています。
また、コミュニケーションの活性化を目的のひとつとしている、「Fun Fund (ファンファンド)」という福利厚生制度も、非常に利用率が高いです。毎月一人当たり5,500円を上限として、飲食の費用を会社が負担します。開催時間や場所は各部署で自由に決定できるため、夜の飲み会だと参加が難しいメンバーも、ランチなら気兼ねなく参加できます。共に働く部署のメンバーとカジュアルなコミュニケーションをとる機会を設けることは、イノベーションの源泉にもなり得るため、会社として投資する価値は大きいと判断しています。
宮城様:現場の担当者としても、制度の利用をただ待つだけでなく、部門を超えて合同ファンファンドを開催することを推奨するなど、積極的に利用シーンを提案するようにしています。小さな成功事例を積み重ねていくことが、文化として定着させる上で大切だと感じています。
ホワイト500を逃した「停滞期」があったからこその成長とは
──様々な取り組みを伺うと、常に順風満帆だったように感じますが、何か課題に直面したことはありましたか?
藤田様:常に進化を続けているつもりですが、もちろん課題はあります。昨年、健康経営優良法人(大規模法人部門)には認定されたものの、その上位500社である「ホワイト500」の認定を数年ぶりに逃すという、組織にとって大きな出来事がありました。この経験が、全社でウェルビーイングのあり方を改めて見つめ直す、重要な転換点となったのです。
これまで継続してきた取り組みが、どこかマンネリ化していたのかもしれないという反省がありました。また、経営層の巻き込み方や、従業員への発信の仕方にも、まだ改善の余地があることに気づかされました。この結果は残念ではありましたが、私たちの取り組みが「停滞期」にあることを知らせてくれる、貴重なアラートだったと捉えています。
宮城様:現場担当者としても、この結果はショックでした。特に、毎月実施しているウォーキングイベントも、参加者が固定化してしまうという課題がありました。そこで、手挙げ制で集まった有志のチーム「ウェルネスアンバサダー」のメンバーと相談し、若い世代にも楽しんでもらえるように、謎解きとウォーキングを組み合わせたイベントを企画したのです。ゲーム性を取り入れることで、これまでとは違う層の従業員にも参加してもらうことができました。停滞を打破するには、こうした現場発信の新しいアイデアが不可欠だと感じています。
──その停滞期を乗り越えるために、他に何か大きなアクションは起こされたのでしょうか。
藤田様:新たな一手として「ウェルビーイング・アワー」の導入を決定しました。それまでの施策は、どうしても参加が個人の意欲に委ねられていました。そこで、定期的に全従業員が業務時間内にウェルビーイングについて考える時間を設けることにしたのです。これは、会社としての強いコミットメントを示すと同時に、健康無関心層にもアプローチするための、いわば「強制的なきっかけ作り」です。
松本様:この施策には、経営としても大きな期待を寄せています。マネージャーの視点から見ても、この時間は非常に有意義だと考えています。メンバーが今どのようなコンディションなのか、何に関心があるのかを改めて知る機会になりますし、「チーム全体のウェルビーイングを高めるために、何ができるだろう」と考えるきっかけにもなります。個人の問題としてではなく、チームで取り組むべき課題として捉え直すことができる。これは組織力の向上に直結するため、経営としても積極的に推進しています。
こうした新たな取り組みを通じて、組織のウェルビーイングをもう一度根本から見つめ直し、活性化させていく。そして社員の健康は制度で支えるだけでなく、文化として根付かせるべきもの。その先に、「一人ひとりが自分らしく、健やかに働ける環境を作っていく」という全社共通の明確な目標を掲げています。

まずは「対話のきっかけ」づくりからウェルビーイング経営は始まる
松本取締役、藤田CWO、宮城様のお話から一貫して感じられたのは、PHONE APPLIのウェルビーイング経営が、従業員との丁寧な対話の上に成り立っているということでした。言葉の定義から始まり、ツールの活用、制度の運用、そして失敗からの学びまで、すべてのプロセスにおいて「従業員がどう受け止め、どう感じるか」という視点が貫かれています。この記事をお読みの皆さまの職場でも、まずは小さな「対話のきっかけ」を作ることから始めてみてはいかがでしょうか。
- 会議の冒頭で、仕事以外のコンディションについて話す時間を少しだけ設けてみる。
- 「健康管理」と堅く考えず、「最近のマイブーム」を共有する場を作ってみる。
- 新しい制度を導入する際に、そのネーミングや運用ルールについて、従業員の意見を聞いてみる。
そんな一人ひとりの「自分事」の輪を広げていくことは、決して簡単な道ではありません。しかし、その丁寧な積み重ねこそが、従業員がいきいきと輝き、組織全体を強くしなやかに成長させるための、最も確かな一歩となるはずです。後半では、データを活用したウェルビーイング経営の推進について伺っていきます。
千の提言シリーズ
取り組む企業が16,000社を超えた健康経営。 そのお手本とも言える「ホワイト500」「ブライト500」企業は どんな失敗をし、何に悩み、どう成功パターンを発見したのか。 各企業の担当者に秘伝とも言える話を伺います。






