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【千の提言 #12】「自分ごと化」が健康の鍵。中外製薬の社員を活性化する健康経営。

公開日: 2026.3.31
更新日: 2026.3.31

医薬品業界の雄として「健康経営銘柄」を3年連続で獲得している中外製薬株式会社。医療・健康事業の最先端を走りつづけてきた企業は果たして、健康経営でどのような施策を行っているのでしょうか。中外製薬の社内イベント、「World Cancer Day in Chugai(ワールド・キャンサー・デイ・イン・チュウガイ)」を終えたばかりの人事部エンプロイーサポートグループマネジャーである山本秀一さんを直撃。自社の特性を見極めて施策に採用していく、その独自のノウハウを教えてもらいました。

中外製薬株式会社

中外製薬は、1925年に創業した、独自の技術とサイエンスを強みとする研究開発型の製薬企業です。がん領域を中心に革新的な医療用医薬品を創出し、抗体エンジニアリング技術とロシュ社との戦略的アライアンスを強みとし、個別化医療やDX推進を通じて、いまだ満たされない医療ニーズ(アンメットメディカルニーズ)に応えることを目指しています。

健康経営優良法人 受賞・認定歴

2021年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2022年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2023年:健康経営優良法人ホワイト500認定
2024年:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定
2025年:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定
2026年:健康経営銘柄選定・健康経営優良法人ホワイト500認定

山本 秀一(やまもと・しゅういち)
人事部エンプロイーサポートグループ グループマネジャー

中外製薬の健康経営は「人間性」が起源

──中外製薬さんというと、初期から健康経営に取り組まれてきた印象があります。何がきっかけで、いつ頃から取り組みを始められたのでしょうか。

山本様:まず、中外製薬グループの健康に対する基本的な考え方についてご紹介します。当社グループは、生命関連企業として社員の健康を大切に考え、健康保持・増進に継続的に取り組んできました。また、トップ製薬企業として生産性を高め、イノベーションを追求しながら、健康宣言の中で「経済性」「社会性」「人間性」の三つの視点を高い次元で調和させ、企業価値の向上を目指しています。

こうした取り組みを推進していくためには、その担い手である社員一人ひとりが心身ともに健康で、いきいきと働くことができること、そして活力ある健全な組織風土を実現していくことが不可欠であると考えています。 私たちは、「個人の健康」と「組織の健康」の維持・向上に、会社が積極的に働きかけ、健康経営を実現しています。

実際に会社として健康宣言を掲げたのは2017年からですが、以前から人間性を大切にしている会社であること、製薬という生命関連企業であることを踏まえて、より社員の健康を大事にしていこうということをあらためて表に出した形です。

──もともと人を大事にすることを掲げていらっしゃったからこそ、初期から取り組めたわけですね。健康経営を始める前から社員のための施策やサポートのようなものは存在していたのでしょうか。

山本様:はい、私は健康経営に携わる前は社内のキャリア相談室の相談員をやっていました。キャリア支援というと最近の取り組みのように思われるかもしれませんが、中外製薬では1980年代から行っています。これも「人間性の追求」の一環で行われたものですが、社員が上司に申告し、キャリア形成を新たに検討する動きは、健康宣言以前から当たり前に存在していました。

──それだけ深く「人間性の追求」が根付いているわけですね。そうなると、健康経営が始まって変化を感じるということはあまりなかったのでしょうか。

山本様:「健康経営」の考え方を導入したことで、健康施策を体系的に企画・展開するようになっていきました。また、成長戦略「TOP I 2030(トップアイ2030)」の中で、社員が自身の力を最大限発揮させ、挑戦によって成長が実現できる環境の整備に取り組んでいます。そのためには、働きがいや生きがいを社員自身が考えて行動することが大事であり、さらに心身ともに健康であることがベースであると定めたわけです。

現在、上司と部下のCheck in(1on1)を月に1回実施していますが、この考え方に則って、業務の話だけでなく、キャリアやコンディション等の健康面に関してもしっかりと気遣うようにメッセージを発信しています。

がんの再検査率低迷の衝撃が健康経営加速のきっかけに

──素晴らしいですね。それだけスムーズに進んでいるとなかなか失敗といったものはないのかもしれませんが、初期につまずいたり悩んだりしたことはなかったのでしょうか。

山本様:私が担当になったのは2021年なので、当時は社員の一人として見ていましたが、健康経営を掲げていても、取り組みの発信だけでは社員一人ひとりにまで浸透しづらい課題があったようです。例えば、がんを取り巻く社会課題の解決に向けて、一人ひとりが自分なりの一歩を踏み出すために考える時間・場・仲間づくりの機会として「World Cancer Day in Chugai」を毎年開催しています。このような取り組みを通じて、日頃からがんの怖さや検査の大事さを知っているはずの弊社社員でも、2021年にアンケートを実施した際、2/3程度しか精密検査を受けていないという衝撃的なデータが出てきました。がん領域の売り上げ構成比の高い会社であるはずなのに、「紺屋の白袴」のような現実を突きつけられた感じでした。

──今や健康経営銘柄企業である中外製薬様でもそんな頃があったのですね。その状況を脱した転換点はなんだったのでしょうか?

山本様:一つひとつの施策の見直しです。施策を再構築する中で感じたのは、「いかに自分ごと化するかが大事」ということです。そのために、ややお節介な部分もありますが、受診勧奨のようなターゲットを絞った個別の対応を重視するようにしました。がん精密検査促進策では、改めて検査結果をお伝えし、自分がどういう状態であるのかを再認識する機会を作り、新たな気づきを得てもらうことで行動に移してもらえるようになっています。

メンタルヘルスについても同様で、当社ではストレスチェックを重視しています。ストレスチェック実施後に高ストレス者を抽出したら、翌週には対象者に個別で高ストレス者面接の案内を発信しています。こうすると、回答したばかりで記憶が鮮明ですから、面接に行こうという気持ちになりやすいようです。面接することで背景が明確化され、そこに対してアクションも取れるようになるので、効果的な施策を考えやすくなったり、実行しやすくなったりします。

健康経営の転換点について語る山本様

──ストレスチェックの結果をすぐに返すのはかなり大変な作業ではないですか?

山本様:そこはグループメンバーの努力が活きている部分かと思います。健康サポートシステムや業務フローをしっかり構築した上で臨んでいるため、高ストレス者の抽出、面接案内対応まで1週間程度にできるようになっています。実施期間は3週間程度なので、最長でも1か月以内には自分が高ストレス者面接の対象であることが分かります。

ストレスチェックに関しては、組織分析も活用しています。平均よりも高ストレス者が多い職場などデータ上で気になる部分に関しては、組織長に共有をするのはもちろん、組織長自身が自分の職場で悩みを持っていないかをリサーチしています。ここで悩みが浮き彫りになれば、組織に関与して改善を図るスキームです。

もう少し詳しくお話しすると、以前は事務局側で分析して、抽出した部署にだけ対応をしていましたが、それだとどうしても受け身になってしまい、やらされ感が出たりしていました。今はそれぞれの部署や事業所のデータを個別に送り、気になったところには自ら手を挙げてもらう形です。こうすると、組織に関与する場合でも、受け入れる組織側も「自分ごと」としてやる気を持って受けてくれます

──ストレスチェックの集団分析を活かせない、というお話をよくいろいろな企業さんから伺うのですが、とても真似しやすく、かつ効果的ですね。特に組織ごとに結果を送付し、手挙げをしてもらうのは、自分ごと化するのにピッタリに感じます。

山本様:ストレスチェックって80問だと10分から15分程度かかるわけで、全社員で見ると膨大な時間を使って行っているものです。だからこそ、何か意味があるものにしていく必要があると思って取り組んでいます。

「自分ごと化」が中外製薬の健康経営のキーワードに

──ここまで受診勧奨とストレスチェックの2つの事例を伺いましたが、どちらもキーワードは「自分ごと化」でした。成功の秘訣ともいえると思うのですが、これに気がついたきっかけはどういったものだったのでしょうか。

山本様:これは、先程もお話したがん精密検査促進策のきっかけとなったアンケートです。その結果には、「忙しいから受けられない」や「自分は大丈夫だと思った」といった回答が多数を占めていて、愕然としたのを覚えています。忙しいのはわかるのですが、要精密検査となっているのに受診しないのはリスクがあると考え、施策の導入を決めました。施策の方向性ですが、アンケートを見てさまざまな打ち手を考えていたなかで、エムスリーと協力して進める取り組みを選んで自分ごと化をスタートしました。

──がん精密検査の受診勧奨ですね。実際に効果はありましたか?

山本様:忖度をするわけではないのですが、実際に一緒にやっていて、とても効果を感じています。これまでも弊社として独自に「健康経営通信」という広報もしていますが、これではなかなか動かないだろうなという人たちも受診につながるようになっています。がんはやはり早期発見・早期治療が重要です。ペイシェントサポーター(看護師・保健師)と協力して社員の状態に合わせた受診勧奨を行なってもらうことで、自分ごと化に成功し受診率も飛躍的に伸びました。

先にもお話ししましたが、中外製薬はがん領域の構成比が高い企業であることから、がんの早期発見・早期治療は最も力を入れていきたいと思った部分だけに、自分ごと化で成功したことがその後の施策の方向性を決めたと思います。

誰もが悩む社員巻き込みを解決する「自分ごと化」

取材日当日はまさに「World Cancer Day in Chugai」開催日。大いに盛り上がった会場を覗かせてもらいましたが、皆さん積極的に参加されていて、まさに「自分ごと化」がしっかりと行われていると感じました。どうしたらこれから始める企業でも「自分ごと化」を押し進めることができるのでしょうか。次回は「World Cancer Day in Chugai」のお話を中心に、「自分ごと化」のコツを伺います。

千の提言

千の提言シリーズ

取り組む企業が16,000社を超えた健康経営。 そのお手本とも言える「ホワイト500」「ブライト500」企業は どんな失敗をし、何に悩み、どう成功パターンを発見したのか。 各企業の担当者に秘伝とも言える話を伺います。

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