アルコール問題の治療は理解と自省が重要「患者同士のつながりが早期回復につながる」

産業医の野口裕輔医師が予防の観点から名医に聞く本連載、3回目のテーマは「アルコール問題」です。働く我々にとって、飲酒は公私共に付き合っていくべき健康問題。ふと気がついた時には、過剰な飲酒から肝臓を痛めたり、場合によっては依存症に陥ることもあります。そんな時、どうアルコールの問題と向き合い、立ち直っていくことができるのでしょうか。今回はよつば加納クリニックの長友恭平院長に、アルコール依存症の問題と断酒についてお話を伺いました。
インタビュイー
長友 恭平(ながとも きょうへい)
よつば加納クリニック院長
精神保健指定医、麻酔科標榜医、産業医
宮崎市出身。宮崎大学医学部医学科卒業後、初期臨床研修を経て古賀総合病院精神科に着任。同院で内科疾患に伴う精神症状や癌終末期の精神ケアなどを学び、より専門的な精神科治療を学ぶため精神科救急病院である若草病院へ。同院で修正型電気痙攣療法やアルコール依存症専門治療プログラムの立ち上げに関わる。受診の心理的ハードルが低いクリニックでもアルコール依存症治療が受けられるようにしたいと考え令和4年によつば加納クリニックを開院。
インタビュアー
野口 裕輔(のぐち・ゆうすけ)
エムスリー株式会社
医師・産業医・労働衛生コンサルタント
産業衛生専門医・健康経営エキスパートアドバイザー
自分を見つめ直しアルコール依存治療を進める久里浜式「GTMACK」
──先生がアルコールの問題に取り組むことになったきっかけを教えていただけますか。
長友先生:実は、「アルコール依存症が嫌い」というところから始まっています。キャリアの最初は精神科医としてリエゾン診療が多かったので、そこで肝臓が悪い患者さんをたくさんみてきました。肝臓の悪化から機能障害や疾患にかかる方は多いですが、当時、宮崎県内でアルコール問題を診ることができる病院がほとんどない状況でした。アルコール依存症はせん妄(薬物、様々な疾患、手術などによるストレスが原因で生じる、一過性に注意や認知が障害される病態)もありますし、何度も繰り返すことも多くて困る病気ですから、「嫌い」と思うのも無理がなかったと思います。自分でやるしかないと思い、神奈川県にある国立病院機構久里浜医療センターで研修を受けることにしたんです。
そこで学ぶ中で、自分の理解が間違っていることがわかってきました。それと同時に、今まで間違ったことをしてきてしまったと苦しんだ結果、より深くアルコール依存症に興味を持って向き合うようになっていきました。
──まずは、そういった苦い経験からスタートしたわけですね。実際にどのように意識が変わったのでしょうか。
長友先生:やはり一番変わったのは「患者はお酒を飲みたいから飲んでいる」であったり「本人にやる気がないから治療に向き合えない」「アルコール依存症は本人が頑張ればなんとかなる」という思い込みがなくなったことです。このあたりは感覚的にそう思ってしまいがちですが、学ぶうちにこれが偏見や誤りであることが見えてきました。患者さんにもこのような誤解を持っている方が多いので、そのあたりを注意してケアしていることが多いですね。
──現在行われている臨床活動や飲酒へのアプローチについて教えていただけますか。
長友先生:うちにいらっしゃる患者さんは、紹介で来られる方が多いですね。行政、子ども家庭支援の関連団体などから助言を受けて、いらっしゃる患者さんであったり、宮崎医療センター病院という肝臓内科に力を入れている病院があるのですが、5〜6年前からそちらと連携しており、依存症の治療が必要な患者さんを紹介してもらう体制になっています。もちろん本人の受診の意思が一番大事なのですが、いらっしゃった患者さんにはまず疾患教育を行うところから始めます。アルコールがどういった薬物なのか、なぜ依存症と判断したのかという根拠などを、事前に行った聴取をもとに話すわけです。他にも、依存症の仕組み、脳内報酬系の異常についてなどは、丁寧に説明するようにしています。
その後に、久里浜式アルコール依存症の新治療プログラム (GTMACK:ジーティーマック)による治療が、私は最も治療期間を短縮できて今後の人生を継続していく上での成功率を上げると思っています、という話をして、患者本人の治療意欲が高まるようにしています。ここで、自信がなくても「プログラムを受けてみようかな」と気持ちが向いてくれたら、クリニックで週2回(水曜と木曜)開いているグループの通いやすい方に参加してもらう流れになります。
当院のGTMACKのプログラムは、他のアルコール依存症の方と合同で集団で進めていて、毎回5〜6人が参加します。診察には診察費用が発生しますが、このプログラム自体は無償で提供しており、教科書代や資料代も全部無償にしているのが特徴です。1回あたり1〜1.5時間かけて、GTMACKの教科書に則って進めていくのですが、15〜16回参加していただくとひと通りの訓練プログラムが終了する流れになっています。この行程を1周終わらせた時点で断酒に成功されている患者さんには、このプラグラムを続けるか否かを聞くんですが、ほとんどの患者さんが「もう1周参加したい」とおっしゃるケースが多いですね。
──プログラムを終えて、もう断酒ができているのに参加を望まれるんですね。なぜもう一度受けたくなるのでしょうか。
長友先生:このプログラムは認知行動療法という技術を用いて作られているのですが、当院では、 一番最初に参加し始めたセッションで自分が記載した内容を、最後にもう一度見返してもらうんです。1周して戻ってきて改めて最初に書いたことを見てみると、「当時の自分は嘘をついていた」と表現される方が多くみられます。今の自分ならこんな風には思わないとか、そんなことは絶対に書かないと感じるようなんですね。つまり16回、だいたい4カ月経つと、最初の自分と今の自分の考え方が変わっていることに気がつくんです。そうなると、「もう一度プログラムを受けると今の自分はどう考えるのだろう」と興味が湧いてくるみたいで、続けて受けることを希望される方が多くなるんだと思います。結局2周でも飽き足らず3周目に挑戦される方も多くて、徐々にですが、プログラムから患者会のようなつながりも増えてきています。患者さん同士が仲良くなって、お互い励まし合いながら断酒を支え合うのを見ていると、断酒治療はマラソンみたいなものかなと思うようになってきました。
やはりいきなり一人で40キロ走ってくださいと言われると、大抵の人は続かないと思います。でも集団でプログラムに加わることができれば、一緒に走る仲間がいたり、疲れた時に相談できるスタッフがいたり、困った時に助言をくれる監督がいたりというような感じで、1人で続けるよりも断酒が継続しやすい場になっているように感じます。本来のプログラムは「教育するための場」なんですけどね。
患者コミュニティーで共感・理解が生まれることが、治療の支えに
──プログラムを繰り返すことでコミュニティが生まれ、そこで患者さん同士が支えあったりする絆が結ばれていく印象を受けました。やはり繰り返し受けていくことで、自分自身やアルコール問題との向き合い方がどんどん好転していくわけですね。アルコール問題の特徴のひとつとして、やはり否認というのがあると思うのですが、この治療プログラムの過程ではそこも変わっていくのでしょうか?
長友先生:プログラムが進むにつれて、否認はなくなっていきますね。プログラムの中で過去の自分を振り返る過程があって、そういった内容は診療の中で患者さんと個別に話す機会もあるのですが、プログラムの中で話し合うと周りの患者さんが「そういう考え方もあるね」とか「自分も昔はそう考えていたよ」と、半ば治療者的な立場で新しい患者さんを見てくれて、それが進むほどに患者さんたちが変わっていきます。
──患者さんとしての成長が見てとれるほどになるわけですね。
長友先生:アルコールに限らずなのですが、当事者同士の話はとても受け入れてもらいやすい気がします。医師がいくら「痩せましょう」と言っても患者さんは動きませんが、別の患者さんからの「昔こんなに太っていたけど、痩せたらこんな良いことがあったよ」という話は受け入れてくれるケースが多いです。同様にアルコール依存症の当事者の方が話す体験談は、新たな患者さんにとっては取り組みやすい治療法として受け取ってくれているようです。ある種、そう言った患者さんたちは、患者さんでありながら他の患者さんにとっての先生のような役割を担ってくださっていると思っています。
──おっしゃる通り、アルコールの問題を経験していない人から指示されても、「あなたには苦しさや大変さはわからないよ」となってなかなか聞きづらい部分があると思うので、複数名でのプログラムにはピアサポート的な力があるように感じました。実際取り組まれる中で印象に残っているケースなどはありますか。
長友先生:今までの患者さんで特に印象に残っているのは、もう亡くなられているのですが、居酒屋さんの店主をされていた患者さんです。個性的な方でなかなか一筋縄ではいかないような方だったのですが、時間をかけて関係を作ってプログラムにも来てくれるようになっていました。居酒屋の店主さんなので、身の回りにお酒がある環境なんですが、それでも1年半程度断酒を続けられ、検査数値も良くなってきていたんです。
その方がある時、自分のお店に来たお客さんと喧嘩をしてしまって、すごく腹が立ったためか、飲酒をされたそうです。そのせいなのか分かりませんが、その晩、食道静脈瘤が破裂して、なんとか自宅まで這って帰ったものの、ご自宅の中で血まみれになって亡くなられてしまったんです。その方は周りの環境にも負けずに一生懸命断酒できて、本人も楽しくなってきて、人生が前向きになってきたと言っていたのですが、結果的に亡くなられてしまったことを今でも残念に感じる時があります。
──断酒に真面目に取り組んで継続していても、何かをきっかけに飲酒を開始したり、残念な結果になってしまう方もいらっしゃるのは、治療の難しいところですね。
長友先生:もう一例、これもまた亡くなった方なのですが、真面目に治療を受けなかった印象深い患者さんがいます。プログラムにも参加せず、飲酒も続けていたんですが、その方が肝硬変が悪化しすぎて非代償性肝硬変でChild-Pugh分類C(肝硬変の重症度分類で最も重症)になってしまいました。お腹はぱんぱんになりますし、胸水も溜まった状態で家の中で動けなくなって、吐血して血まみれになって救急車で医療センター病院に運ばれてきました。私はその時外勤で行っていましたので患者さんにもお会いしたのですが、その段になって「助けてください」「自分ができることはなんでもするので、この苦しさから助けてください」とおっしゃられていたんですが、もう悪すぎて戻ることができる状態ではありませんでした。入院中も断酒されたのですが、どんどん悪くなって、結局亡くなられてしまいました。こんなはずじゃなかった、こんなに苦しいなら、こんなに死ぬような思いをするならちゃんとやっておけばよかったと思ったから「なんでもするから助けて欲しい」とおっしゃられたんだと思いますが、もうどうしてあげることもなくて。悔しい思いを抱えたまま亡くなられたと思うんです。
だからその方の例は教訓的な話として、今からアルコール依存症の治療を受ける人に対して「中にはそういう人もいる、そういう最後を迎える場合もある。同じような状態になって欲しくない」とお話することがあります。
──そういったお話を伺うと、依存の状態になってしまった際の治療法であったり、依存の状態になる前にお酒との付き合い方などを学ぶことが大事だと思いますね。また、こういった苦い経験が、アルコール依存症治療に取り組まれる原動力になっているように感じました。
アルコール依存症の治療において、本人の主体的な意思がまず重要であることは知られていますが、そこからの伴走の大変さ、患者同士のつながりがもたらす回復への後押しが見えてくる取材でした。依存症治療をマラソンに例える長友先生のお考えは、これから治療に当たる方はもちろん、産業保健担当者として働く皆さんに対処する読者にも響いたのではないかと思います。
後編では、日常生活におけるアルコールとの付き合い方や、これからの広報について掘り下げてお話を伺います。
専門家コラムシリーズ
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