健康経営/産業保健コラム健康経営実行支援コンサルティング

後編:健康経営はトップダウンとボトムアップの両輪が推進の鍵

2025.2.6
健康経営はトップダウンとボトムアップの両輪が推進の鍵

開始から10年を迎え、ますます注目度が高まる健康経営。新たな方向性として、海外市場の開拓や、今までわかりにくかった施策効果の可視化・質向上などを打ち出しています。果たして、どのような内容なのか、野口裕輔医師が経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長の橋本泰輔氏に伺いました。

インタビュイー
橋本 泰輔(はしもと・たいすけ)
経済産業省
商務・サービスグループ
ヘルスケア産業課長

インタビュアー
野口 裕輔(のぐち・ゆうすけ)
エムスリー株式会社
医師・産業医・労働衛生コンサルタント
産業衛生専門医・健康経営エキスパートアドバイザー

施策を見える化することが、サービスの選びやすさにつながる

──大きく広がりを見せている健康経営ですが、7月に開催された第12回の健康投資ワーキンググループ(現・健康経営推進検討会)では、今後の方向性がいろいろと打ち出されていました。大きな目玉の一つとしては、施策の可視化かと思うのですが、これはどういった取り組みなのでしょうか?

橋本泰輔課長健康経営を通して社会の進展を図っていく上でも必要だと思っていることが、取り組んだ際のメリットの提示だと思っています。今までも企業の成功エピソードや事例などを出していましたが、より定量化が可能なデータで示すことが有効であると考えまして進めているのが、「健康経営の取組意義の明確化と効果の可視化への意識づけ」になります。

例えば、健康経営に取り組んでいる企業の方が従業員1人あたりの生産性が高かったり、高ストレス者割合が低かったりする結果が出てきています。こういった結果も示していきたいと考えています。これはワークエンゲイジメントのような指標にも繋がっていて、企業業績や生産性との間に相関関係があることも、近年の研究でわかってきました。こういった様々な分析を示すことで、どんな施策がより有効なのかということも見えてきます。

さらに、健康経営の質を高めていくという観点では、外部サービスの導入時も有効です。健康経営を進めることで、取り組み企業に対するサービス、言い換えると健康経営関連サービス産業のような市場を育成することにつながると考えています。これはかなり民間の方々との連携にもよると思いますが、そういった市場育成を考えた際に、施策の効果が見える化されていることは重要です。

──データで健康経営施策の効果を示していくのは本当に大事だと思います。 中小企業で人が欠けて大変だ、というエピソードベース以上に、生産性の変化や、働く人が生き生きと働けているかどうかが数字として見えてくると、一層「弊社でも取り組もう」という動きにつながりそうです。どういったデータが出てくるのか、研究ベースのものも含めて期待したいですね。

橋本泰輔課長:我々も民間の方と連携した研究を進めて、出せるものは随時出していきたいと思っています。

──少し話は変わりますが、健康経営度調査は毎年その内容がブラッシュアップされていますが、これはどういった政策目標にもとづいて進んでいくのでしょうか?

橋本泰輔課長:政策目標は、現在はあまり具体的な数字として設けていません。どちらかというと、健康経営自体が運動論的な話と捉えています。いつまでにどこまで進めていこう、というよりは、実態を見ながら毎年社会の変化に合わせてブラッシュアップすることを地道に続けることで取り組んでいただける企業を増やしていく、あるいは健康経営関連サービス市場に参入する企業を増やしていく、またサービスの質を上げていく部分が政策になるのかなと思っています。

──近年の健康経営市場では、健康経営コンサルティングやメンタルヘルスサービスが勃興し、1800億円規模とも言われています。他方で、多くのサービスが増えたことで、企業が何を選んだら効果的なのかはわかりにくくなっています。これを選ぶのに良い方法はあるのでしょうか。

橋本泰輔課長:基本的には民対民の話ですので我々は口出しするものではないと思っていますが、一方で、取り組み企業の話を伺うと、どのサービスが自社に合うのか分かりにくいという声をよく聞きます。今は、経済産業省がサービサーと取り組み企業との間を繋ぐところへ貢献できないかと工夫をしているところです。具体的にはメンタルヘルスサービスを自社に合う形で選べる仕組みを業界団体と連携して作成中で、来年度には皆さんにお見せできる形にできるかと思っています。これをプロトタイプとし、他のところにも波及していければなと考えているところです。

──どの企業でも「メンタルヘルスは問題ではありません」というところはないと思います。私も、産業医の立場として サービスの見極めや質の担保が難しいと思っていました。そこのニーズやサービスの整理が背景として求められているのでしょうか?

橋本泰輔課長:そうですね、今最も関心が高い分野の1つではあるかなと思ってます。だからこそサービスがどういったエビデンスに紐づいているのかがわかるのは重要です。それをどのような形で表示し、消費者や利用企業に理解いただくのかが、1つの課題だと思っています。

──美辞麗句で良いサービスに見えるものも多いと思いますが、今後はより中身の質が求められていくわけですね。

橋本泰輔課長:はい。そういったものにするためにもエビデンスの整理は別途学会などとも連携して進めています。

経営層の巻き込みと産業保健スタッフの両輪が健康経営を進める

──ここからは、今後の健康経営度調査に関してお伺いします。今回の調査票で最も大きい改定ポイントはどこになるのでしょうか?

橋本泰輔課長:最も大きい点は、経営者や取締役会といった経営層の関与をお願いしているところです。企業にヒアリングをすると、トップがしっかりコミットメントを表明しないとなかなか実際に進んでいかないという声が多いので、我々としては大きな期待をかけている部分でもあります。あとはパーソナルヘルスレコードを使った従業員の個別健康アプローチの土台作りをはじめているのと、中小企業向けに、より多くの企業へインセンティブを持ってもらいたいという思いから、上位501~1500位を「ネクストブライト1000」として新たな冠を創設しました。

──健康経営を進める上での課題は、すなわち経営課題であるわけですから、経営の手綱を握る層がそこに関心を持ってコミットするのは大切だと思います。具体的にどういった関わりが期待されているのでしょうか?

橋本泰輔課長:そこはあまり複雑な話ではなく、議論がなされていること自体が、経営層に関心を持たせることになると考えています。どこの組織でもそうだと思いますが、関心を持って「次にどうするのか、どうなったのか」を聞かれれば、担当者もしっかりとした報告をするようになります。その仕組みを作ってほしいというのが企業に求めていることですね。健康経営を具体的に進めていく時には責任者を決め、加えて産業医や産業保健スタッフと連携しながら進める形が理想です。

──トップも関わった上で体制を作り、確認や改善を含めてPDCAを回せる仕組みが大事になりますね。その上で、その企業に合わせて具体的な施策を進めていくには産業医や産業保健職の関与が重要になってくると。

橋本泰輔課長:産業保健職を含む専門家の関与がないと、施策内容の担保もできません。また、専門職だからこそわかることもあります。彼ら、彼女らが担当者とともに社内でより精力的に進めてもらうのがいいのかなと思います。

──実際に健康経営優良法人の不認定理由のほとんどが、「産業保健職が関与していなかった」と経済産業省の資料にも出ていたかと思います。逆に、関わらずにどう進めているのかがイメージできません。専門家の目を通して進め、足りない部分を補う形で外部サービスなどを導入し、一体となって進めていくことが大事ですね。

橋本泰輔課長:企業によってさまざまなパターンがあるとは思います。もちろん関わっている産業医やスタッフの性格にもよると思いますので、関与の度合いは我々からは「これがいい」という基準は申し上げられません。ただ1つ言えるのは、専門家の視点は絶対にあった方がよいということです。これは予防健康づくりのところでもありますが、1回健康を害された方が復帰する際の取り組みなどもあります。ここは特に産業医の個別の支援も力を発揮する分野となります。

──最後に、現在健康経営に関心を持ってる企業はもちろん、これから取り組もうと考えている企業に対して一言いただけますか。

橋本泰輔課長:我々は健康経営を前に述べた意義で進めていますが、企業の方々からすると、自分の企業をどうしていきたいのか、そのために人材が持ってるポテンシャルをどう引き出していくのかということに尽きると思います。また、その一番の土台部分が「健康」であるということは、否定しようがありません。企業として健康に注力していくことが、経営上大事なことなのかをご理解いただいたうえで、施策を考えていただければと思います。具体的に何をしたらいいのかわからないという場合には、この10年間進めてきて、多くのノウハウが溜まってきています。健康経営優良法人認定事務局ポータルサイト「ACTION!健康経営」などを見てもらい、参考にしながら進めてもらうと、スムーズに進められると思います。

小規模事業者で本当に何をしたらいいのかわからない企業は、ぜひ地域の支援者を頼ってみてください。保険者や商工会議所、自治体担当者などにまず気軽に相談してもらえると適切なアドバイスを貰いながら進められると思います。

──健康経営は健康が経営の礎、底力と捉えて進められてきたと思います。今後もこの軸がブレずに進んでいくことを期待したいと思います。本日はありがとうございました。

健康経営は新たなフェーズへと進んでいく

健康経営が始まって10年を迎え、そのカバーする範囲や分野は次々に広がっており、経営層の関与も一層求められるようになりました。一方で働き方の多様化が進み、従業員のニーズも多様化するなかで産業保健職への期待も高まっています。健康を通した経営課題の解決という大きな目標に向け、健康経営に関わるすべての従業員がより知恵を絞る必要性が感じられる内容も多く含まれていました。次の10年で健康経営はどのように進化するのか。みなさんも見守るだけでなく、実践者としてともに行く末を作っていきましょう。

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