健康経営/産業保健コラム健康経営実行支援コンサルティング

前編:経済産業省担当者が語る健康経営の10年。「企業の健康施策が当たり前に」

2025.2.5
経済産業省担当者が語る健康経営の10年。「企業の健康施策が当たり前に」

経済産業省が2014年に「健康経営銘柄」の選定を行ったことから始まった健康経営顕彰制度も、今年で10年を超える施策として受け継がれてきています。健康経営度調査に回答した企業は大規模法人では3,869法人、中小規模では20,280法人と過去最高数を記録。施策としても新たなマーケットの創出や、効果の可視化・質向上を狙うなど、立ち上げ期から成長期への様相を見せています。今後の健康経営はどう進んでいくのか、野口裕輔医師が、経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長の橋本泰輔氏に伺いました。

インタビュイー
橋本 泰輔(はしもと・たいすけ)
経済産業省
商務・サービスグループ
ヘルスケア産業課長

インタビュアー
野口 裕輔(のぐち・ゆうすけ)
エムスリー株式会社
医師・産業医・労働衛生コンサルタント
産業衛生専門医・健康経営エキスパートアドバイザー

日経225対象企業の8割が健康経営に取り組む

──まず、 健康経営顕彰制度が開始されて10年が経過しましたが、これまでの健康経営の歩みについて伺わせてください。

健康経営を経済産業省が推進しはじめたのは2014年で、ちょうど10年綿々と進めてきましたが、社会的な浸透もそれなりにされてきたと感じられるようになりました。ここまで広がった背景として最も大きかったのは、社会の構造的な変化である高齢化と労働人口減少が同時に訪れるなかで、健康というものがより重要になってきた部分があると思います。生産性を上げてより少ない人数で成果を出す、あるいは労働人口を増やしていくということが政策的にも求められ、その大きな流れの1つとして健康経営というものが受け入れられた形です。企業から見ると短期的には従業員の健康対策を行うことで生産性を上げたり、組織の魅力を向上させたりという部分が大きいと思います。もう一つ深掘りすると、予防健康づくりという視点で見た時に、日本は医療制度がしっかりしていることもあり、自分の健康づくりに対するインセンティブが働きにくいと言われてきました。健康経営は、ある種「自身での健康投資」の代わりに企業が健康投資をするという側面もあります。また、健康投資の裏側にはヘルスケア産業、健康づくり産業があります。この市場の活性化というのも当初からの狙いの一つとしてありました。

──実際健康経営を10年間推進してきたなかで、どれくらいの企業が取り組んできているのでしょうか?

橋本泰輔課長:取り組み企業は年々増えていて、健康経営優良法人の認定という視点ですと、令和6年度の調査の回答数は大規模法人では3869法人、中小規模法人の申請数は20,280法人まで広がってきています。大企業ではリーディングカンパニーを中心に広がってきていて、「日経225(日本株式市場を代表する225銘柄を対象とした日経新聞社が発表する株価指数)」の対象でいうと8割ぐらいの企業に取り組んでもらっています。

──すでに社会へのモーメントが働くボリューム感にまで広がっている一方、取り組みにくさやハードルを感じている企業もあると思います。そういった事業者へのアプローチなどはされているのでしょうか?

橋本泰輔課長:さまざまな事情があると思いますが、まだ健康経営を認知していないという企業も当然ありますので、そこへの啓発には力を入れています。大企業の場合は、自社の競争力の一環として取り組んでいるケースが多いので、効果の可視化や取組内容の開示等も推進しています。

一方、中小企業に対してはまだまだアプローチが難しい面があります。そもそも健康経営自体を知らない企業も多くいらっしゃるので、そういう方々へは健康経営とはどういったものか、取り組んだ際のメリットはなにがあるのか、などを認知してもらえるように広報活動を行っています。その上で、「なかなか何をすればいいのかわからない」という企業に対しては、我々だけでなく地域でも支援する体制があります。市町村・自治体の方々や商工会議所といった経済団体、健康保険組合などの保険者など、その地域のプレイヤーの方々とも連携しながら、取り組み方などを広めています。さらに、経営リソースの限られる中小企業に対しては、よりメリットを明確にするために、健康経営に取り組むためのインセンティブも作っています。具体的には、中小企業庁の各種補助金制度における審査の加点措置や、日本政策金公庫の金利負担優遇、一部地銀等での優遇施策などです。こういった支援を複合的に行いながら広めています。

健康経営のインパクトは中小企業・小規模事業者こそ大きい

──中小企業へは認知もそうですが、実際に取り組むリソースが限られてくる面もあります。高齢化や労働人口減少が進むなかで、人材確保が難しくなっていることを考えると、大企業よりも中小企業における健康経営のインパクトは大きいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

橋本泰輔課長:おっしゃるとおり、従業員1人1人が果たす役割という観点では、相対的に中小企業の方が換えがきかない仕事をされている方が多いと思います。その人が健康を害して働けなくなってしまった時のリスクは中小企業の方が大きくなってしまうので、健康経営に早めに取り組んでいただきたいなというのはあります。中小企業の経営者の中には、不幸にもそういう経験を経て「健康経営はすごく大事」と認識し、それをキッカケに始めていただけるケースもよくあるようです。もちろん不幸な体験が起きる前に気づいて、先んじて進めてもらうのが最も良いのですが。

──私も中小企業の産業医をしていますが、技術力があったり、すごく大切にされてた人材が病気に倒れたことがきっかけで健康経営に取り組むようになった企業も実際にありました。転ばぬ先の杖ではないですが、健康を経営戦略として捉えていくことの大事さはもっと広がるべきだと思っています。

橋本泰輔課長:すでに健康経営を10年推進してきまして、それなりの企業には浸透してきたという思いがある一方で、中小企業法人は170万社以上ありますので、まだまだ周知が足りていないと思っています。今認定を取っている中小企業は約1万7000社に留まっており、その結果、日本で働いている全従業員の中で「健康経営優良法人」の取得企業で働いている方は大体15%しかいないと見込まれています。
中小企業の中でも従業員が10人以下のいわゆる「小規模事業者」への浸透が薄かったという結果が出ていますので、より取り組みやすい環境づくりも進めています。
健康経営優良法人の認定でいうと、小規模事業者向けに要件を緩和し、より取り組みやすく認定を受けやすい制度設計を今年度から始めています。

──国内の認知以外にも、健康経営の国際展開も見据えていると伺いました。ただ、日本企業の健康管理は諸外国と比べると、企業が健康診断の結果を確認するなど特殊な部分が大きいです。今後国際展開する上で、どういったイメージを持たれてるかを教えて下さい。

橋本泰輔課長:健康経営の国際展開では2つのことをメインに考えています。1つは、健康経営に取り組む日本企業そのものの良さというか、日本企業の特徴を分かってもらう という点です。 もう1つは、健康経営の考え方が海外に普及していくなかで、関連サービス企業の事業進出の機会創出ができればと考えています。ただ、健康経営という考え方は日本社会があってこその部分もありますので、 他国に行く際はその社会に合った形へと当然変化する面もあると思います。まずは今、東南アジア、特にタイなどで具体的にやってみようという動きがありますので、そこで進めながら考えていきたいと思います。

──そのまま輸出するというより、現地に合わせた形に変えて出すイメージですね。

橋本泰輔課長:各国の事情がありますのでそうなると思います。ただ、従業員に健康になってもらうことで経営課題を解決していくという部分は普遍的だと思っています。

──企業のポリシーや法的な部分は異なると思いますが、おっしゃる通り、ゴールとしては変わらない部分が多いと思います。あとは、関連サービスが産業として他国でも振興できるかが重要になりますね。

橋本泰輔課長:一緒に進出していければという気持ちはありますね。

予防健康づくりを企業がサポートする新たな経営の形

今回は、健康経営が求められる背景から、中小企業にとってのメリットやインパクトについて語っていただきました。医療が充実しているがゆえに個人での予防健康づくりが疎かになりがちなのが日本の特徴と言われていますが、そこを経営という視点から企業がカバーする手法は、これまでと異なる企業発展に繋がる可能性を秘めています。次回は、ここまで広がった健康経営が今後どういった方向へと成長していくのか。その戦略について伺います。

健康経営/産業保健

健康経営/産業保健コラムシリーズ

企業に義務付けられている産業保健体制の構築から 健康経営の考え方・推進法まで幅広い話題をご提供。 これを読むだけで今求められている施策・対応への理解が進みます。

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