会社における感染症予防策とは? 取り組むべき理由と事例を解説

「毎年流行る感染症に対して、会社で実施できる予防策は?」
「健康経営の一環として感染症予防を実施するには、どのような取り組みが必要?」
感染症の蔓延を防ぐには、社内にウイルスを持ち込まないための制度を整え、ワクチン接種や抗体検査などの予防策を講じることが大切です。また、感染症予防は健康経営優良法人の評価項目に含まれるため、健康経営の推進を図る上でも理解しておく必要があります。
本記事では、会社が実施するべき感染症予防策や、会社が単独で予防策を実施できない場合の対応も含めて解説します。
会社が実施するべき感染症予防策

会社が実施するべき感染症予防策は以下のとおりです。
- 手洗い・手指消毒・咳エチケットを喚起する
- 定期的に換気を心掛ける
- 予防接種の手配・費用を補助する
- 海外渡航者に向けた感染症対策を実施する
- 麻しん・風しん等の感染症抗体検査を行う
- 感染症に対する研修やセミナーを実施する
- 従業員が密集しないオフィスレイアウトを検討する
- 柔軟な働き方を推進する
- 本人や家族の罹患時に休みやすい制度を整える
- 感染症事業継続計画(BCP)を策定する
なおこれらは、健康経営優良法人の認定を受けるために必要な調査項目(※)も踏まえた予防策です。健康経営優良法人の認定を目指す場合は、上記の予防策を参考に自社に合った取り組みを推進していきましょう。
それぞれ詳しく解説していきます。
(※)「令和7年度健康経営度調査(素案)(従業員の健康に関する取り組みについての調査)」(経済産業省)
手洗い・手指消毒・咳エチケットを喚起する
接触や飛沫による感染症を防ぐには、従業員に対して手洗い・手指消毒・咳エチケットを喚起することが大切です。社内では備品やOA機器などを従業員同士で共有することが多く、共有物にウイルスが付着していると手を介して感染拡大する可能性があります。
また、咳やくしゃみをハンカチやティッシュ、上着の袖などを使って押さえないと、ウイルスが空気中に放出され、空気感染する可能性も考えられます。社内で感染症を蔓延させないためにも、従業員に手洗い・手指消毒・咳エチケットを徹底させることが重要です。
従業員に手洗いや手指消毒を促すには、食堂や給湯室、トイレなど従業員が手を洗う箇所にポスターを掲示したり、デスクに消毒用アルコールを設置したりする方法が有効です(※)。咳エチケットを喚起する場合は、社内にポスターを掲示したり、咳やくしゃみが出る従業員に対しマスクの着用を促したりするように心掛けましょう。
(※)「職場における感染防止対策の実践例」(厚生労働省)
定期的に換気を心掛ける
感染症を防ぐには、定期的に換気することも重要です。換気することで、空気中に浮遊しているウイルスの滞留を防げます。社内に機械換気が設置されている場合は、常時換気が行われているものの、定期的なフィルタ清掃が必須です(※)。
オフィスや店舗に機械換気が設置されていない場合は、2つの窓を常時開放し、換気用ファンや空気清浄機を使用するのが望ましいとされています(※)。また、従業員に定期的な換気を促すには、社内ルールを定めたり、CO2センサーを設置して換気のタイミングを可視化したりするのが効果的です。
(※)「感染拡大防止のための効果的な換気について」(厚生労働省)
予防接種の手配・費用を補助する
従業員の予防接種を手配したり、費用を補助したりすることも、社内で実施できる感染症予防策の一つです。予防接種を受けるとウイルスに対する免疫力が高まり、感染を予防するり、あるいは感染した場合でも重症化しにくくなる効果が期待できます。
法人の場合は、福利厚生として予防接種にかかった費用を経費として計上可能です。なお、予防接種を福利厚生に含めるには、以下の要件を満たさなければなりません。
- 業務遂行のために予防接種が必要であること
- 全従業員が対象であること
- 金銭ではなく現物支給であること
上記の要件を満たしていない場合、予防接種にかかった費用を福利厚生費として経費計上できない可能性があるためご注意ください。
海外渡航者に向けた感染症対策を実施する
海外出張する従業員に対して、ワクチン接種や健康診断などを実施することも、会社が取り組むべき感染症予防策です。ワクチン接種や健康診断などを実施することで、ウイルス感染を防ぎ、従業員の安全と健康に配慮できます。
また、従業員が海外でウイルスに罹患しないために、出張先で注意するべき情報をまとめて共有することも大切です。従業員がウイルス感染した場合に備えて、渡航先の医療施設に関する情報収集したり、保険に加入させたりすることも検討しましょう。
麻しん・風しん等の感染症抗体検査を行う
会社が取り組める感染症予防策として、麻しんや風しん等の感染症抗体検査が挙げられます。感染症抗体検査とは、過去に罹患したことがある場合やワクチン接種によって、ウイルスに対する免疫をもっているか調査する検査です。
麻しんや風しんは感染力が非常に高いため、ワクチン接種による感染症対策が強く推奨されます(※1)(※2)。会社の健康診断項目に感染症抗体検査を実施することで、社内での集団感染リスクを防げます。
(※1)「麻しんについて」(厚生労働省)
(※2)「風しんについて」(厚生労働省)
感染症に対する研修やセミナーを実施する
従業員に対して感染症に対する研修やセミナーを実施することも、会社が実施できる感染症予防策です。感染症予防の正しい知識を身につけることで、季節性ウイルスが流行した場合でも、従業員本人や家族の健康を守るために適切な判断と行動が取れるようになります。
社内で研修やセミナーを実施する際は、感染症予防に知見のある専門家や講師を招き、対面もしくはオンラインで研修する方法が理想です。業務や家庭の事情で受講できない従業員がいる場合は、いつでも視聴できる動画やパンフレットなどの配布も検討してください。
従業員が密集しないオフィスレイアウトを検討する
飛沫や接触によるウイルス感染を防ぐには、従業員が密集しないオフィスレイアウトの検討が不可欠です。従業員同士の距離が適度に離れていることで、接触や飛沫による感染予防が期待できます。
感染症予防策としてのオフィスレイアウトには、従業員同士が対面にならないようデスクを対角に配置したり、背中合わせにしたりする方法があります。従業員同士が対面になるレイアウトしか対応できない場合は、デスク間を2メートル以上離すか、デスク用パーテーションの設置を検討しましょう。
柔軟な働き方を推進する
会社として感染症予防に取り組む際は、テレワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方を推進しましょう。従業員同士が接触する機会を減らすことで、飛沫や接触による感染や、通勤時に利用する公共交通機関での感染のリスクを低減できます。
会社で導入できる柔軟な働き方の具体例として、以下などが挙げられます。
- テレワーク
- フレックスタイム制
- 短時間勤務
- 週3・4勤務制
など
従業員の業務内容によって、働き方を柔軟に選べるのが理想です。
本人や家族の罹患時に休みやすい制度を整える
会社の感染症予防策では、従業員本人だけでなく家族の罹患により休暇申請できる社内規定を設けることも重要です。従業員本人の体調不良はもちろん、家族が感染症に罹患しているにもかかわらず無理に出勤させた場合、社内でのクラスター発生が懸念されます。
社内クラスターの発生を防ぐためにも、体調不良の当日に休暇取得できる制度や、感染症に罹患した際に休暇取得できる制度の導入を検討しましょう。また、家族が感染症に罹患した際に、特別休暇の付与対象となる社内規定も有用です。
なお、こうした社内規定を設ける際は、従業員が休暇を取得しやすい環境を整えることも求められます。個人スマホやPCから申請できるシステムを導入することで、従業員は気兼ねなく休暇を取得できるでしょう。
感染症事業継続計画(BCP)を策定する
感染症事業継続計画(BCP)を策定することも、会社が取り組むべき感染症予防策です。事業継続計画(BCP)とは、自然災害や事故などの緊急時に事業が早期復旧できるように、会社が対応するべき行動・対応をまとめたアクションプランのことです(※)。
新型コロナウイルスが流行する以前は、地震や台風などの自然災害を中心とした事業継続計画が作成されていました。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミック発生以降では、感染症発生時に対応できる事業継続計画の作成が求められています。
感染症発生を踏まえた事業継続計画を作成することで、パンデミック発生時に従業員やその家族の健康を守りつつ、業務停止による経済的な損失の軽減につながるでしょう。
(※)「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(内閣府)
会社が感染症予防に取り組むべき理由

会社が感染症予防に取り組むべき理由として、以下が挙げられます。
- 従業員の安全と健康に配慮する必要があるため
- 事業継続に支障が生じる可能性があるため
- 健康経営優良法人の評価項目に含まれているため
それぞれの理由を詳しく解説します。
従業員の安全と健康に配慮する必要があるため
会社は、労働契約法にもとづいて従業員が安全で健康に働けるように配慮しなければなりません(※1)。感染が懸念される状態であったにもかかわらず、会社側が感染症予防に必要な対策が講じられていなかった場合は、安全配慮義務違反とみなされる可能性があります。
実際に2025年3月には、都内の某飲食店にて感染症対策を怠って従業員を死亡させたとして、飲食店側に賠償を命じる判決が下されました(※2)。このような実例を踏まえて、会社は感染症予防に取り組むことが求められます。
(※1)「労働契約法」(デジタル庁)
(※2)「コロナ死亡、料理店に賠償命令従業員遺族が訴え、東京地裁」(47NEWS)
事業継続に支障が生じる可能性があるため
感染症が蔓延すると事業継続に支障が生じる可能性があることも、会社が感染症予防に取り組むべき理由です。
コロナ禍では、世界中で物流が混乱・停滞し、原材料の入荷が滞った結果、商品の製造が停止して多くの会社で事業継続に支障が生じました。近年のようにリモートワークの体制が整っておらず、感染拡大を防止するために一時的な休業を余儀なくされる会社もありました。
大規模なパンデミックは収束に向かっているものの、今後は新たなウイルスによる感染症が拡大する可能性も少なくありません。
このような経験を踏まえ、企業は将来の感染症危機に備えておくことが重要です。内閣府は未来に起こり得る感染症危機に備えて、事業継続計画(BCP)の作成と訓練・研修の実施について提唱しています(※)。コロナ禍の経験を踏まえて、自社の感染症予防に関する課題を洗い出し、対策法を検討することが大切です。
(※)「次の感染症危機に備え、事業者の皆様に心がけていただきたいこと」(内閣感染症危機管理統括庁)
健康経営優良法人の評価項目に含まれているため
会社が感染症予防に取り組むべき理由として、健康経営優良法人の評価項目に含まれている点も挙げられます(※1)(※2)。健康経営優良法人とは、従業員の健康管理を経営的視点で戦略的に取り組んでいる企業や法人のことです。
健康経営優良法人の認定を受けることで、従業員の健康増進や企業イメージの改善、社会的信用の確立、人材確保といったさまざまなメリットが得られます。健康経営優良法人の認定を取得するためにも、感染症予防に取り組みましょう。
(※1)「健康経営優良法人2025(大規模法人部門)認定要件」(ACTION!健康経営)
(※2)「健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)認定要件」(ACTION!健康経営)
会社が単独で感染症予防に対応しきれない場合の対応
会社が単独で感染症予防に対応しきれない場合は産業医や保健所、外部の衛生管理業者、医療機関などの専門機関と連携が必要です。
産業医から感染症対策の指導や対応フローの助言を受けたり、保健所との相談窓口を明確にしたりしておくことで、従業員に感染者が出た場合にも迅速に対応できます。また、感染症予防の専門家による講演・セミナーを受けられると、従業員が当事者意識をもって感染症対策に取り組めます。
感染症予防を実践した会社の取り組み事例

感染症予防を実践した会社の取り組み事例を3つ紹介します。他社の成功事例をヒントに、自社で取り組める感染症予防策を検討してみてください。
在宅勤務や特別休暇などの社内規定を整備した事例|東海光学株式会社
東海光学株式会社は、新型コロナウイルスを「自社で発生させない」「外から持ち込まない」を基本として、感染症予防に取り組んでいます。
同社では従業員がテレワークで働けるように、在宅勤務規定やワークフローの導入、セキュリティ対策など実施。さらに、ワクチン接種時に休暇を取得できるよう、特別休暇制度を設けました。
このような取り組みにより、緊急事態宣言下でもスムーズに在宅勤務の実施を進められました。また、特別休暇を事前・事後の申請に対応可能にしたことで、従業員の休暇状況やワクチン接種状況などを把握できるようになったとされています。
(※)「職場の感染症防止対策事例集」(愛知県)
事業所を分散し働きやすい職場づくりに取り組んだ事例|三重リコピー株式会社
三重リコピー株式会社はオフィス機器の販売やメンテナンス、システム構築などを行っており、いざというときでも取引先の業務に支障がきたすことがないように感染症予防を実施しています。
同社では事務所を3箇所に分散し、全従業員が働く場所にとらわれないようにテレワーク環境の整備を実施しています。さらに、独自の感染症対策ガイドラインを制定し、ポスター作成や情報発信などを実施しました。
このような取り組みにより、対面での会議・研修が減少し、移動時間短縮による業務効率の向上につながりました。また、感染症予防の啓発により、従業員の感染症対策に関する意識が向上したとされています。
(※)「人も企業も健康になる経営健康経営の優良事例」(全国健康保険協会(協会けんぽ)三重支部)
動画配信サービスを利用し健康情報の発信に取り組んだ事例|株式会社ファンケル
株式会社ファンケルは、社内感染による生産性低下や感染症の蔓延にともなう従業員の不安を軽減するために、感染症予防を実施しています。
同社では動画配信サービスを利用し、健康予防・改善に関する情報発信を行いました。また、新型コロナウイルスワクチンの職域接種や就業時間内接種を実施。
このような取り組みにより、動画を視聴した従業員から在宅勤務時の不調改善に役立ったという声も寄せられています。また、ワクチン接種の推進施策により、本社勤務する従業員の73%が接種し、社内での感染拡大防止につながったとされています。
(※)「2022健康経営先進企業事例集」(健康長寿産業連合会)
従業員が健康で働けるように会社の感染症予防策に取り組もう
会社が実施するべき感染症予防策は以下のとおりです。
- 手洗い・手指消毒・咳エチケットを喚起する
- 定期的に換気を心掛ける
- 予防接種の手配・費用を補助する
- 海外渡航者に向けた感染症対策を実施する
- 麻しん・風しん等の感染症抗体検査を行う
- 感染症に対する研修やセミナーを実施する
- 従業員が密集しないオフィスレイアウトを検討する
- 柔軟な働き方を推進する
- 本人や家族の罹患時に休みやすい制度を整える
- 感染症事業継続計画(BCP)を策定する
会社は安全配慮義務を果たすためにも、感染症予防に取り組むことが重要です。また、感染症予防の取り組みは、健康経営優良法人の認定を受けやすくなります。まずは自社の感染予防に関する課題を洗い出し、課題に適した対策法を検討してください。
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