『Sleep Doc』は物流業界の睡眠健康課題を解決できるか?

セイノースーパーエクスプレス株式会社 常務執行役員 藤松正樹様
エムスリーとソニーグループの合弁会社、株式会社サプリムが提供する『Sleep Doc』は、睡眠時無呼吸症候群のリスクをチェックできるサービス。運輸運送業のドライバーなどの日々の健康管理と、パフォーマンス改善を必要とする方の睡眠課題を可視化することができます。
ウェアラブルデバイスを睡眠時に装着して2日間分の睡眠を計測することに加えて計測前にセルフチェックを実施することで、睡眠時無呼吸症候群以外のさまざまな睡眠障害についても簡易的なリスクの確認が可能となります。
ではこの『Sleep Doc』の導入によって、健康経営上の企業課題はどのように変化するのか。実際にサービスを導入されたセイノースーパーエクスプレス株式会社の常務執行役員・藤松正樹さんに話をうかがいました。
これまでの適性診断だけでは踏み込めなかった領域へ…Sleep Docが企業にもたらすもの
──初期導入にあたって、経営視点からSleep Doc導入を決められた経緯や、貴社が抱えていた課題感について教えてください。
藤松様:運送事業は公道でハンドルを握る事業であり、それだけに安全の担保は非常に重要な使命だと考えています。従業員の命ももちろん大切ですが、加害事故を起こして相手の方を悲しませるようなことも絶対にあってはなりません。そういったことを経営層が理解しているのは当然なのですが、会社としてだけではなく、従業員の個々人が自覚を持つことも大切だと考えています。
弊社のような運送事業をはじめ、タクシー・バス業界など公道でハンドルを握る従業員を抱えた事業者は、ドライバーを対象とした適性診断を3年に1回実施することになっています。ナスバ(NASVA)という大きな公的機関でのペーパーによる診断が行われ、睡眠時間に関して平均時間に足りていないという結果が出た場合はドライバーにアラートがあがるようになっているんです。ただし、この診断はあくまで自己申告をベースにしたものなので、それに対して会社は注意喚起を促すくらいしか対応に踏み込めていないという現実がありました。
そのため、Sleep Docのようなサービスを通して、これまでの適性診断だけでは足りないファクトを揃えることができれば、睡眠に関する従業員の自覚がより向上し、また会社としても治療を促すなど、より積極的なアクションを起こす材料となるのではないかと考えました。
先述の通り、安全の担保に関しては日々さまざまなトライアルを模索していますが、Sleep Docは試験導入的にスモールスタートで始めることができたというのもきっかけのひとつです。
職業適性のジャッジではなく、あくまで睡眠にまつわる健康問題を自覚するきっかけに
──Sleep Docを現場に導入するあたり、気をつけられた点はありましたか? また、導入後、従業員の皆さんにはどんな変化を期待されていたのでしょうか?
藤松様:現社長も含めて歴代の社長が常に言ってきたのは、「従業員を守るのが経営層の仕事だ」ということです。それについてははっきりと宣言しながらこれまでやってきたので、会社が従業員の安全担保に向けた施策を導入することへの拒否反応はそれほどありませんでした。ただ、個々人のリスクを調べることにはなるので、労働組合等にも配慮し、きちんと説明して理解を求めるというステップを踏むことが大切だと感じました。
まだ全社的に結果データが出揃っていない段階ではありますが、これまで自覚症状がなかった人でも何かしらの課題を見つけて、自身の健康問題により自覚を持てるようになることに期待しています。
今回の取り組みの目的は、従業員各人のドライバーとしての適性をジャッジしたいというわけではありません。あくまで、自身の睡眠にまつわる健康問題を自覚するきっかけになればいいと思って導入したわけです。そうしたきっかけ作りは絶対に必要で、たとえば自身にSAS(睡眠時無呼吸症候群)のリスクがあっても、まったく運転できないということではありません。自分にそういったリスクがあることを認識することで、たとえば時間に余裕をもって前倒しで出発したり、長距離のドライブは避けてこまめに休憩をとるように心がけたりと、いろいろな対策を自らで講じられるようになることが大切なのです。

── 一方で、こうした検査の難しい点としては、従業員の方がネクストアクションを迷ってしまうケース(グレーゾーン)があると思います。グレーゾーン判定となる方々に対しては、どのようにアプローチをされるご予定でしょうか。
藤松様:グレーゾーンに対して会社がはっきりと指示を出すのは難しく、正解を求めるには、やはりちゃんとした医師の判断が必要になると思います。会社としてはこれまでも、健康診断などを通して、健康上のリスクに疑いが生じた従業員については、その状況を放置せずに白黒つけるまでしっかりサポートしていくよう心がけてきました。
例えば、毎年実施している健康診断で言えば、E判定のような異常結果があったときは再検査の受診勧奨を行い、受診したかどうかの結果まで必ず追いかけるようにしています。治療が必要なのか、治療をしながら就業は可能なのか、それとも、ハンドルを握ること自体が難しいのか、といったことを白黒はっきりとジャッジしておくことは、我々のような業界ではとても大切ですが、最終的には本人の健康のためだと思っています。従業員の命はお金で解決できません。Sleep Docも、従業員各人の健康状態を追いかけるためのバロメーターの一つとして機能してくれることを期待しています。
業界全体で安全向上に取り組むためには、物流コストの問題も重要な要素
──お話を聞いていて、貴社の安全に対する意識の高さは多くの企業の中でもトップレベルであるように思いました。
藤松様:安全に100%がないように、「事故ゼロ」というのも非常に実現が難しい目標です。ただ、ゼロを掲げない限り、ゼロに向けた対策を考えることはできません。Sleep Docは、事故ゼロに近づくためのツールとして、たとえば健康診断の結果データと連携したりなど、これからいろいろな展開が期待できるのではないかと思っています。

業界全体では、安全の重要性は理解されながらも、安全に対する教育や人事などの制度については成果が見えにくく、そのために会社の経営状態が悪いと予算がカットされやすいというケースもあると耳にすることがあります。我々としては、そういったあたりにもしっかりと目を向ける必要があるかと思います。
そのためには適正な価格まで物流費を上げるということも必要になります。そうすることで、業界全体の体力をつけて、さらに安全への投資を推し進めることが大切です。物流の安全輸送が実現すれば、物流の価値がさらに上がるという好循環につながります。物流費の中には安全に関する人材の教育や施策のコストも含まれており、それによって安全で快適な物流が維持されているということを理解していただくことが大切になってくるのではないでしょうか。







