2026年認定の鍵はここにある。事務局が明かす改訂ポイントと、ニチレイが示す「ウェルビーイング経営」の実践例【GO100サミットvol.5 レポート】

「健康経営」の先へ。多くの企業が模索する「ウェルビーイング経営」の理想形の1つが見えてきました。2025年9月9日に開催されたエムスリー株式会社主催のオンラインイベント「GO100サミット vol.5」は、テーマを「今こそ聞きたい「健康経営優良法人2026」申請のポイント」と題し、健康経営優良法人認定事務局の健康経営優良法人の最新トレンド解説に加え、9年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に認定されている株式会社ニチレイの先進的な取り組みが紹介されました。本記事では、紹介された具体的な施策の数々を、余すことなくお届けします。貴社の健康経営を次のステージへと引き上げる、具体的なヒントがここにあります。
健康経営優良法人2026 最新トレンドと部門別改訂ポイントについて
登壇者:健康経営優良法人認定事務局
第一部の講演では、健康経営優良法人認定事務局が登壇し、「健康経営銘柄制度と2025年(令和6年度)の振り返り」および「健康経営優良法人2026(令和7年度)認定・申請について」の2点を中心に解説しました。
健康経営がもたらす価値と社会の変化
まず、健康経営が単なる福利厚生ではなく、持続可能な社会を構築するための重要な経営基盤となったことを説明。現代社会が直面する「少子高齢化に伴う労働力人口の減少」や「社会保障費の増大」といった構造的な課題に対し、健康経営は企業と社会に大きな価値をもたらすといいます。
中でも、
- 企業・組織への価値:従業員のエンゲージメントや生産性の向上、採用力の強化、企業価値(投資家評価含む)の向上に直結する。
- 働く個人への価値:健康寿命の延伸やQOL(Quality of Life)の向上、そしてウェルビーイングの実現に貢献する。
- 社会への価値:結果として、社会全体の活性化と持続可能性を高めることに繋がる。
といったメリットによって、企業、個人、社会の「三方よし」を実現する経営手法であり、その重要性はますます高まっていると述べました。
まさに今が山場の申請における重要な改訂ポイントを解説
続いて、2026年認定に向けた申請における主な改訂ポイントを総ざらいしました。大規模なら10月10日、中小規模でも17日が締切と、まさに最もホットなタイミングだっただけに非常に注目度の高い内容となりました。今回の改訂における企業の担当者が特に注意すべき点は以下の通りです。
1.評価項目の個別問診の追加と具体化
これまでの評価項目が網羅的であったのに対し、2026年認定では、より企業の個別事情や戦略に踏み込んだ評価が行われます。具体的には、「健康経営の経営課題と連動する目標(KGI)とKPIの設定」「経営会議での議論の具体的内容」「健康経営の組織体制と役割」「PHR(パーソナルヘルスレコード)の活用状況」「仕事と育児・介護の両立支援の具体的な取り組み」など、計10項目にわたる詳細な個別問診が追加されます。これは、単に施策を羅列するだけでなく、自社の経営課題と健康経営戦略がいかに結びついているかを具体的に説明する能力が求められていることを意味します。
2.多様な働き方への対応強化
働き方の多様化が進む現代において、従業員が健康的に働き続けられる環境の整備がより重視されます。今回の改訂では、「勤務間インターバル制度」の導入状況や、「治療と仕事の両立支援」に関する従業員への具体的な情報提供と相談体制の構築が評価項目として追加されました。従業員一人ひとりのライフステージや健康状態に合わせた柔軟な支援体制が、企業の持続的成長に不可欠であるというメッセージが込められています。
3.情報開示の重要性の高まり
健康経営の取り組みを社内外に適切に情報開示し、ステークホルダーとの対話を深めることの重要性が強調されました。特に、投資家をはじめとするステークホルダーは、企業の非財務情報を重視する傾向にあり、健康経営への投資とその効果を具体的に開示することが、企業価値向上に直結します。申請においては、自社のウェブサイトや統合報告書などで、どのような情報をどのように開示しているかが問われます。
最後に、「締切直前はアクセスが集中し、システムトラブルも予想されるため、余裕を持った申請を心掛けてほしい」と呼びかけ、第一部の講演を締めくくりました。
「健康経営」から「ウェルビーイング経営」へ ニチレイのさらなる挑戦
登壇者:株式会社ニチレイ 園田 愛望氏
※本記事の内容は2025年9月時点のものです。
第二部では、9年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に認定されている株式会社ニチレイの園田 愛望氏が登壇。同社が「健康経営」から一歩進んだ「ウェルビーイング経営」へと進化を遂げるまでの軌跡と、その具体的な取り組みについて、詳細なデータと共に語られました。
株式会社ニチレイは、加工食品や低温物流などを主力事業とする、連結従業員数16,000名を超える企業グループです。今でこそ健康経営の先進企業として知られていますが、その出発点は非常に深刻なものだったそうです。
2015年当時、同社は従業員の私傷病による死亡事例が相次ぐという、憂慮すべき事態に直面していました。「適切な健診受診と事後措置によっては死亡をまぬがれた可能性もあった」という反省から、「『働きがいの向上』は従業員の健康がベースにある」という考えのもと、健康経営を経営の最重要課題の一つとして位置づけ、全社的な挑戦を開始したのです。
進化するニチレイの健康経営:4つのフェーズと3つの具体策
ニチレイの取り組みは、単なる施策の導入に留まりません。明確なロードマップを描き、着実にステップアップしてきました。

Phase 1:体制整備期(2015年)
まず着手したのは、基盤となる体制の構築です。「ニチレイグループ健康宣言」を策定し 、健康管理基準を制定 。さらに、全国に約300拠点ある事業所 のどこにいても同レベルの健康支援サービスが受けられるよう、産業保健体制を再整備。
Phase 2:定着期(2016~2018年)
構築した体制を社内に根付かせるフェーズです。定期健診の事後措置の徹底や、健康意識向上のための情報発信(健康塾の展開) を強化。
Phase 3:浸透期(2019~2023年)
従業員一人ひとりが健康を「自分ごと」として捉えるための施策を拡充。フィジカル、メンタル、そして働きやすさという3つの側面から、より多角的なアプローチを展開。
Phase 4:進化期(2024年~)
これまでの「健康経営」の成果を土台とし、従業員の「生きがい」にも目を向けた「ウェルビーイング経営」へと進化させることを目指しています。取引先や地域社会へと活動の輪を広げることも視野に入れています 。園田氏は、特に課題が大きかった3つの領域における具体的な取り組みと、その成果についても詳しく解説しました。
1. フィジカルヘルス:”E判定者”への断固たる措置
まず取り組んだのは、健康診断で「E判定(就業制限検討値)」、つまり治療を最優先すべきレベルと判断された従業員への対応でした。複数年にわたりE判定を受けながら治療を中断している従業員が半数以上を占める状況にありました 。
そこで同社は、2021年度に「就業制限検討値該当者の就業上の措置に関する基準」を制定 。該当者に対し、①時間外労働、②休日労働、③出張を即時禁止するという、極めて厳しい措置を導入しました。
この強いメッセージは、従業員の行動変容を劇的に促しました。就業制限による同僚への業務負担を回避したいという思いから、治療を再開・継続する従業員が増加。結果として、E判定該当者の割合は2020年度の2.1%から2024年度には1.2%まで低下し、2021年度の該当者のうち78.4%で翌年度以降の健康状態が改善するという目覚ましい成果を上げました 。
2. メンタルヘルス:管理職を孤立させない「COCOサポ」制度
メンタルヘルス不調に関する相談が増加する中で、相談ルートの約半数が上司や人事部門経由であることが判明しました 。これは、管理職が部下の不調の第一発見者となり、大きな負担を抱えていることを示唆していました。
この課題に対し、ニチレイは管理職向けのラインケア研修を抜本的に強化。従来のe-ラーニングに加え、具体的なケーススタディやロールプレイングを取り入れた集合研修を必須化しました。そして、この両方の研修を修了した役職者を、「COCOサポ(心のサポートチーム)」として認定する制度を創設 。COCOサポ同士が情報交換できるチャットルームも設け、管理職が一人で悩みを抱え込まない体制を構築しました。
この結果、研修受講後のアンケートでは、「部下からメンタルヘルス不調の相談を受けた時、対応できる自信がある」と回答した管理職の割合が、受講前の約35%から約65%へと大幅に向上しました 。

3. 女性の健康:データに基づき、タブーをなくす
従業員アンケートを実施したところ、女性特有の健康課題が浮き彫りになりました。月経や更年期症状で「困ったことがある」女性従業員は60%以上にのぼる一方、「パフォーマンスに影響がある」と感じる人は70%以上にも達していました 。しかし、こうした不調に対して「何も対処していない」人が半数以上を占めており 、個人の問題として我慢してしまいがちな現状が見えてきました。この「声なき声」に応えるため、ニチレイは多岐にわたる施策を展開。
- 教育・啓発:全従業員を対象に、女性の健康に関するe-ラーニングを必須化 。著名な専門家を招いたオンラインセミナーも定期開催し 、男女問わず正しい知識を得る機会を提供しています。
- 支援:婦人科医によるオンライン診療プログラムを導入し、会社負担で受診できる体制を整備 。月経困難症(PMS)や更年期症状、妊活に関する相談まで、気軽に専門家へアクセスできるようにしました 。
- 制度:従来の生理休暇を、月経前症候群(PMS)や男女の更年期症状にも利用できる「ヘルスケア休暇」へと改定 。取得者には保健師からフォローの連絡が入る仕組みも導入し 、休暇取得が孤立に繋がらないよう配慮しています。

「おいしい瞬間」を届け続けるために
ニチレイの挑戦はまだ道半ばです。園田氏は、今後の展望として「従業員が年齢・性別に関わらず常に心身共に健康でいきいきと働き、『おいしい瞬間』を届け続けられる組織の実現」を掲げました 。その達成に向け、エンゲージメント、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズムを重要なKPIと定め 、2030年にはそれぞれ80、90という高い目標を設定しています 。
過去の痛ましい出来事を起点としながらも、データを真摯に分析し、課題から逃げずに具体的な施策を着実に実行してきたニチレイ。その歩みは、「健康経営」が単なるコストではなく、企業の持続的成長を支える「投資」であることを力強く証明しています。そして今、その視線は従業員の「健康」から、より包括的な「ウェルビーイング」へと向けられています。ニチレイの挑戦は、すべての日本企業にとって、未来を照らす道標となるに違いありません。




