世界に先駆けウェルビーイングを推進するISO規格の全貌

2024年12月19日に経済産業省ヘルスケア産業課が開催した「健康経営推進検討会」において、ウェルビーイングを推進するためのフレームワークを定めた国際規格「ISO 25554:2024高齢社会-地域社会と組織のウェルビーイングを促進するためのガイドライン」(以下、ISO 25554)が日本からの提案により発行されたことが報告されました。これにより何が変わり、健康経営にどう影響するのでしょうか。ISOの基本についても交えながら紐解きます。
ISO 25554とは何か?
ISO 25554は2024年11月12日に発行された国際規格で、高齢化社会においてウェルビーイングを推進するためのガイドラインを提供するものになります。ISOは、国際標準化機構「International Organization for Standardization」の略称で、国際的な標準を策定するための機関です。世界中のさまざまな分野における共通のルールや基準を定め、製品やサービスの品質、信頼性、安全性などを確保するために使われています。

国際標準 ウェルビーイングISO「ISO25554:Wellbeing」”.経済産業省公式サイト.2024年12月.
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/health_management/pdf/001_s03_00.pdf
,(参照:2025年3月13日).
今回のISO 25554の目的は、規格名にもある通り、地域社会や企業がウェルビーイング重視の社会を構築するための枠組みを示し、生活の質や豊かさを向上させるための具体的な指針を提供することにあります。最大の特徴は、日本での取り組みを反映させつつ、SDGsやWHOの理念との整合性を持たせている点で、今後ウェルビーイングを含む健康経営を世界に展開していくにあたって、重要な規格となっています。
ISO 25554の誕生背景
ISO 25554の開発は、世界的な高齢化の進行と、それに伴う社会的課題に対応する必要性から始まっています。ISOの専門委員会であるTC 314「Ageing societies」が2017年に設立され、ここでウェルビーイングの推進が主要議題として位置づけられました。
日本ではこの設立を受けて、一般社団法人社会的健康戦略研究所とISO/TC 314 国内審議団体を務める一般財団法人日本規格協会が連携し、国立研究開発法人産業技術総合研究所と協力してウェルビーイング規格の開発を提案しました。特に日本は、この分野での先進的な取り組みとして健康経営や自治体を含む地域施策をベースに、社会的健康を支えるフレームワークを提案し、採用されています。
規格化された「ウェルビーイング」とは
ウェルビーイングとは、身体的、心理的、社会的な健康を含む総合的な幸福の状態を指します。この概念は、単なる健康の維持にとどまらず、生活の質や個々人の充実感を追求するものとされています。従来の経済的な価値観が中心だった社会から、「生活の豊かさ」を包括的に評価する社会への転換が世界的に求められる中、ウェルビーイングは社会における幸福指標として重要性を増しています。特に高齢化が進む中で、個人だけでなく地域社会や企業がウェルビーイングの向上に寄与することが国際的にも重視されています。
ISO 25554では、「ウェルビーイングは多義的で文化や背景によっても異なる」という認識を共有し、「取り組むべきウェルビーイングの領域は各組織が定める」として、ウェルビーイングとは何かということを一切定義していないのが特徴です。これにより、個人と集団のウェルビーイングを、組織のリーダーが決定することが可能になっています。これに合わせて、柔軟に対応できるよう地域や企業の規模や性質に応じて適用可能な「個人と集団のウェルビーイング向上活動に関するガイドライン」を提供しています。
ISO 25554は、ウェルビーイングの向上に必要な要素を包括的に網羅したほか、評価手法や具体的な促進策も明記されています。また、デジタル技術を活用した取り組みや、健康経営を基盤にした実践事例など、実施可能なフレームワークを提供している点も特徴的です。適用範囲は高齢化社会への対応が求められる地域や企業で、特に持続可能な開発目標(SDGs)の推進に取り組む組織に焦点を当てています。
サポートを容易にする実践的なガイドラインも提供
ISO 25554は、地域社会や企業がウェルビーイングを推進する具体的な取り組みをサポートするためのガイドラインを提供しており、特に、各組織が自らの特性に応じた取り組みを行うための柔軟な枠組みを示しています。具体例として日本国内の事例が採用されており、企業における健康経営の導入や、自治体による地域包括ケアシステムの整備などが挙げられているほか、デジタル技術の活用により幅広い取り組みを支える方法も提示されています。

国際標準 ウェルビーイングISO「ISO25554:Wellbeing」”.経済産業省公式サイト.2024年12月.
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/health_management/pdf/001_s03_00.pdf
,(参照:2025年3月13日).
また、ISO 25554では、ウェルビーイングの促進が組織や地域のパフォーマンス向上と密接に結びついていることを強調していることも大きな特徴です。これは現在、国内で普及が進む健康経営の考え方にも則したものとなっています。従業員や住民のウェルビーイングが向上すれば、企業では生産性の向上や離職率の低下が見込まれ、地域では住民の社会的参加やコミュニティの活性化が促進されます。
ビジネス分野での活用と展開
ISO 25554は、ビジネス分野においても広く活用される可能性を秘めています。特に、企業が取り組む健康経営や従業員のウェルビーイング向上につながる手法が明確に示されており、これに基づく取り組みが企業価値を高める要素として注目されています。例えば、ウェルビーイング重視の風土を築くことで、職場における心理的安全が確保され、従業員の生産性向上や持続可能な経営が実現可能です。また、日本企業がこの規格を採用し成功例を示すことで、国際市場への展開も期待されます。この規格は、日本発のビジネスモデルやベストプラクティスを世界に広げるための重要なツールとなっています。
今後の健康経営の国際的発展につながるウェルビーイングISO
ISO 25554が推進するウェルビーイングの理念は、単に個人の幸福度向上にとどまらず、地域社会や組織全体の活性化をもたらし、結果として、持続可能な社会の構築にも寄与することが期待されています。特に高齢化社会において、日本が主導するこの規格は重要な役割を果たすでしょう。
今後は、「ウェルビーイングISO」を通じた成功事例が国内外で増えれば、世界の他国でも採用が進み、影響力がさらに拡大するでしょう。また、ウェルビーイングを企業戦略や地域振興策の中核に据えることで、幸福感を基準とした新しい価値基準が世界的トレンドとなる可能性があります。
<参考>
- 経済産業省「健康経営推進検討会参考資料3」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/health_management/pdf/001_s03_00.pdf - 国立研究開発法人産業技術総合研究所「ウェルビーイング重視社会への転換を促す国際規格ISO 25554が発行」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241209/pr20241209.html - 一般財団法人日本規格協会「【前編】ウェルビーイング重視社会への転換を促す国際規格ISO 25554が発行」
https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0620/?id=1358 - 一般財団法人日本規格協会「【後編】ウェルビーイング重視社会への転換を促す国際規格ISO 25554が発行」
https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0620/?id=1359
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