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継続性の維持と認知度向上が試金石 薮野先生が語る「運動療法処方箋」の今

2025.7.4

ジムに通うことが治療につながる。そんな仕組みが「運動療法処方箋」です。医師を始めとする専門家からパーソナルなプランを練ってもらえるほか、医療費控除の対象になるなど、予防医療を推進していく上でも多くのメリットがありますが、実際に進めていく中ではまだまだ問題点もあるそうです。産業医でありビジネスプロデューサーでもある野口裕輔先生が、『Stay Fit Clinic(ステイフィットクリニック)』の薮野淳也先生に、今後の運動療法処方箋の動向についてインタビューします。

インタビュイー
薮野 淳也(やぶの・じゅんや)
株式会社なべふぁ 代表取締役
Stay Fit Clinic院長
医師・産業医・認定健康スポーツ医

インタビュアー
野口 裕輔(のぐち・ゆうすけ)
エムスリー株式会社
医師・産業医・労働衛生コンサルタント
産業衛生専門医・健康経営エキスパートアドバイザー

どこまで確からしいものを提供できるのかが「運動療法処方箋」のカギ

──最近都内のジムやパーソナルトレーニングなどで、「医師監修」であったり、エビデンスをうたっている宣伝の多さです。専門性や質の担保はどうなんだろうと感じていたのですが、運動療法処方箋が使える指定運動療法施設はそのあたりどうなのでしょうか。

薮野先生:確かに多くの施設で「医療監修」といった文言が見受けられますね。しかし、実際に医療として提供できているものは少ないと思います。その点、運動療法処方箋は疾患ごとに運動プランや強度を指定するなど、最新医療やエビデンスに基づいた対応をできるのが魅力です。また、医師を含めた公的な資格を持っている専門家が3人も関わって、その方のためだけのプランを作ったり運動のサポートまで対応してくれたりするのは安心材料になるのではないでしょうか。

──運動療法処方箋を使って運動する際は、その3人の専門家が関わる施設で行うのが必須なのでしょうか。

薮野先生:基本的にはそうです。まず、健康スポーツ医や循環器専門医などの医師がどのような運動をすべきかといった大枠を決めます。それに従って健康運動指導士が具体的なメニューを決め、運動実践指導者が実際に指導を行います。

ただ、実際には運動実践指導者は非常勤でもよい規定なので、その管理の元に実践できていれば運動療法としてみなされます。こういった事情から、最近では24時間ジムでも指定運動療法施設の認定を獲得するケースが増えているそうです。この場合、指導面での手厚さはやや欠けてしまうかもしれませんが、患者さんとしては生活に合わせやすくなる良い面もあると思っています。

──かなりしっかりしたケアを受けられるわけですね。さきほど薮野先生は、産業医業務とクリニック、ジムの3つの場をうまく繋げることが大切とお話していましたが、実際にうまく繋がった事例などはあるのでしょうか。

薮野先生:かなりいろいろなパターンがあります『Stay Fit Clinic』は特に産業医の視点を入れた働く人のための治療施設です。そのため、職場のお困りごと、例えば人間関係であったり、仕事内容で滅入ってしまったりといったケースが多くなります。経営者の方ですとプレッシャーがのしかかってくるといったケースで関わることもあります。そういう方々にいきなり運動を勧めても「まだやることが他にある」と感じられてしまい拒否されたり、難色を示される場合も多いです。そういったことから、最初は薬などでケアを進めていき、少し落ち着いたところで、心身だけでなく生産性の面などからエビデンスもある運動に取り組みませんか、と提案するようにしています。

実際に参加していただくと、運動習慣のなかった人でも週1回、2回とどんどん参加頻度が増えていき、体つきが変化したり減薬がうまく進んだりしていきます。なにより前よりも自信がついたり風貌が変わったりと、好循環ができやすいところが特徴です。『クロスフィット青山』はコミュニティ形成がうまくいっていることもあり、参加者同士で支え合ったり、新たな仕事に繋がったりといった副次的な効果も生まれているようです。うちが特徴的すぎるのかもしれませんが、WHO(世界保健機構)が掲げる「社会的な健康」を心身の健康と同様に重要視していることが良い方向へと進めているのかもしれません。社会的な健康は多くの方が大切だと感じる一方で、なかなか介入したり、重視したりできていないのが現状ですから、そこはわれわれの強みの一つと考えています。

ジムから始まるパターンですと、普段通われていた方が忙しさからしんどさを感じて、私に相談をし、そこから治療に取り掛かったり、産業医視点で診断書を書いたりすることで早期に解決したケースがあります。

──うまくつながることで、早期解決や、予防へとつながっているわけですね。

薮野先生:まさにそうです。産業医から始まるパターンは最初にお話した通り少し特殊なのですが、私が勤務している企業の方などから「運動セミナー」を開いてほしいといった要望を頂けるので、産業医とトレーナーの立場から運動のエビデンスについての話や実際にHIITトレーニング(High Intensity Interval Training、高強度インターバルトレーニング)を紹介し、そこからジムや治療に興味を持ってもらう形が多いです。これらをグルグル回すことで、どんどんと広がっていっています。

どう働くかよりも「そもそも働けますか」が必要な観点

──治療介入が必要なパターンの回復過程で運動をし、社会的なつながりも生まれて生活習慣も改善してくるというケースは、先生が行われている3つの活動のシナジーが生まれている瞬間だと感じました。特にメンタルヘルス対策・予防に運動は有効なのでしょうか。

薮野先生:近年では研究が進み、有効と言えるほどエビデンスが集まってきています。運動をしてスッキリするということそのものが、BDNFと言われる脳由来神経栄養因子の産生を促す効果があることがわかってきており、それに基づいたガイドラインも海外では設定されています。ここ数年でこの流れが強くなってきていますので、今後はより具体的な運動種目がエビデンスとともに出てくるようになるでしょう。今や運動はオーバーワーク以外は毒ではありませんし、アメリカスポーツ医学会が提唱する「Exacise is Medicine」のように、がんなどを含めたより広い病気にも運動が有効であるという結果が増えてくると思います。

──メンタルヘルス対策は喫緊の課題と言われていますので、運動が一つの解決法につながるのは素晴らしいですね。少し話は変わりますが、メンタルヘルス不調から休職・退職するケースは近年増えていますが、やはり休養・治療が大事であったり、リワークが求められたりします。一方、回復の過程で体力面の低下や、社会的な孤立なども問題になることがあります。そういった観点から、リワークの一環としても運動を活用できる印象を受けました。

薮野先生:おっしゃるとおりで、リワークのような部分は大きいと思います。ただ、リワークそのものはこれからどう働いていくのかというところがフォーカスされると思うのですが、私はより手前に効くのではと思っています。これは私が持っている問題意識ともつながるのですが、「そもそも働けますか?」というところを改善できるという一言に尽きます。ビジネスマンとしてこれからハードなビジネスの世界に戻るわけで、そこで戦えるだけのペースや体力が整っているのかを確かめながら治療を進められるのは大きいです。そういった意味で、運動はリワークよりも一歩前の段階を作ることに繋がっているという方が正しいかもしれません。

──働く前に、まずその準備をしっかり整えられるようにしようということですね。

薮野先生:それも習慣だと思うので、クリニックで私が指導したり、ジムで運動を通して形作っていってもらったりしています。

──私も運動をしているのですが、習慣づけが課題だと思います。そのあたりはうまく動いているということなのでしょうか。

薮野先生:まだまだ難しいというのが現実です。運動を治療として行うことで医療費控除が受けられるなら、患者さんにとっては心身を整えながら行えるわけで、みんな使いたがるだろうなと思っていました。しかし、実際はなかなかこの良さがわかる方はいません。多くの人にとって、医療で治療を受けるということと運動をするということは別物だと捉えているようです。専門家がしっかりと運動習慣をつけさせてくれるというのは、0から1を作るようなもので非常に貴重なことだと思うのですが、一方で、それが必要であると認識させること自体が非常に難しいことなんだと感じていますね。

使っても継続が難しいという面もあります。運動療法処方箋にはその後の経過報告書があるのですが、うちで診察した後に外部ジムに通われた場合、多くの方がすぐに退会しているという結果が報告されています。これはかなり課題に感じている部分です。自分のジムであれば、私が直接見てモチベーションを上げることもできるので維持率を高く推移させられますが、別のジムだと難しいですね。

──継続性というのは大事だと思うのですが、ここを伸ばしていくために個人ができること、取り組めることなどはありますか。

薮野先生:いろいろな側面があると思うのですが、「時間がない」と感じられていることと、「お金を使いたくない」と考えられていることの2つが基本になると思います。その解決手段として、近年では運動とまではいかない身体活動量を増やすものを取り入れることを勧めているケースが多いと思います。具体的には、ひと駅分歩くであったり、階段を使うであったりとかですね。

そういった活動はもちろんやっていくべきだと思うのですが、正直あまり楽しい活動とは言えません。個人的に今求められているのは、効果的で効率的といったビジネスマンが好むスキームであったり、子育て中の方でもスキマ時間でできるといった便利さだと思っています。それらを達成できるような運動プログラムと、モチベーションを高めながらしっかりと指導してくれるスタッフ・コーチの両輪が必要です。そこにコミュニティという社会的健康に繋がるものがついてくるのが理想だと思います。これは、学生時代の部活動に近いかもしれません。部活が厳しくてもなんだかんだ続くのは、楽しさとしんどさのバランスが取れている上に、横の繋がりが強かったからではないかなと。この3つのバランスを個人の好みを加えながらとっていくのが良いと思っています。

──「楽しくないと続けられない」というのは素晴らしいキーワードですね。運動的な楽しさも、仲間との楽しさもあると思うのですが、気軽にコミュニケーションを取れる環境があるコミュニティって貴重です。さらに自分の成長が見て取れるという楽しさも加わると続けられるのかもしれませんね。

薮野先生:まさにおっしゃられた2つの要素が追加で大事な部分だと感じています。みんなで楽しく運動した後に会話したり、食事に行ったりといった繋がりができる気軽さが大事だと思っています。もう1つも野口先生がおっしゃった達成感ですね。一番わかりやすいのはウエイトトレーニングだと思っていて、「何キロ上げられるようになった」といった小さい達成感をみなさん楽しみにしていると思います。意外とウエイトトレーニングは、女性の方がハマる例をたくさん見てきています。女性の間で筋トレそのものが流行っているのもあると思いますが、全然運動習慣がなかった人たちが、社会人になってうちのクロスフィットなどを始めたら、どっぷりとハマってしまったというケースが多いです。そういう方に伺うと、スクワットで少しずつ記録が上がっていくのが楽しいとか、目標を設定して、それを乗り越えることに快感を感じるといった声を頂戴しています。この目標も変にきつすぎるものではなく、個人に合ったものを設定してあげることで、より楽しさを感じてくれやすくなっていくのではないでしょうか。

──純粋にゲーム性が高いのかもしれませんね。私もウェイトトレーニングをやっていて、何キロ上がるようになったとか、目標を達成したという時にドーパミンがすごく出ているのを感じることがあります。そういった自分のコンフォートゾーンから一歩踏み出してチャレンジし、達成するプロセスって、フロー状態に入りやすいと感じています。

薮野先生:そういったドーパミンが出るタイミングがあると、成功体験にもなりますし、メンタル的にもすごく活性化した状態になると思います。さらにエビデンス的に言えば、運動をすることで気持ちがスッキリするとか、生産性が上がってくるのを感じる人は結構いらっしゃいます。そういったキッカケを掴んでもらうと習慣化しやすく、続けやすくなりますよね。

うちのジムは朝7時のクラスがありますが、朝トレーニングしてシャワーを浴びてから会社に行くというようなルーチン化をしている方もいます。また、お昼のクラスに参加されている方の中には、「昼にまったく眠くならなくなって最高です!」と言って毎日続けられている方もいらっしゃいます。私はホームページで「健康になるためにアスリートになる必要はない」というのを理念として掲げていますが、その理念通り別に毎日やる必要はないですから、週1から始め、好きになってきたら週2、週3と増やしていくようなやり方が良いと思っています。通われている方は他にたくさんやることがあると思いますので、そのスキマにどう入り込んでいくのかというのが重要になりますね。

──ルーチン化と小さな成功体験が大事なわけですね。本日はありがとうございました。

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