未実施だと法的ペナルティも!? 健康診断が健康経営に欠かせない理由

近年注目を集める健康経営ですが、その推進にあたっては、まず基本中の基本といえる健康診断の実施は欠かせません。今回は健康経営の観点から、従業員の健康診断が企業にとっていかに重要であるのか、その理由についてあらためて紹介していきます。
健康診断は、企業/従業員双方に法的義務がある

企業が労働者に対して、医師による健康診断を実施しなければならないことは「労働安全衛生法」という法律の第66条によって定められている法的な義務となっています。もしこの義務に反して健康診断を行わなかった場合、労働基準監督署から勧告や指導が入ることもあり、50万円以下の罰金が課せられるケースも…。
一方の労働者側に対しても労働安全衛生法第66条は、企業が行う健康診断を受診する義務があることを明記しています。これにもとづき、企業側は労働者に対して健康診断の受診を命じることができるわけです。労働者側が受診拒否した場合の罰則については定められていないものの、法令遵守にもとづく企業の命令を拒絶した労働者に対しては企業は懲戒処分をもって対処することが可能になります。
健康診断は、健康経営に対する意識の高さ如何にかかわらず、そもそも企業に課せられた大前提の必須事項。従業員の健康状態を把握しておくことは、それだけ企業活動を続けていくためには重要だということがいえそうです。
健康診断は、企業にとってどんなメリットがあるのか?

人にとって健康であるか否かは、日々のパフォーマンスを大きく左右する重要な問題。企業にとっても当然、従業員の健康は作業の生産性にかかわるものであり、結果的に企業の業績や価値にも大きく影響を与えます。さらに人口減少・高齢化を迎えている日本では、「生涯現役」を前提とした経済社会システムの再構築が早急に求められているのが現状で、誰もが長く働き続けるため、「健康」の重要性が社会全体でより高まっています。
そうした現状のなか、近年では「ウェルビーイング(Well-Being)」というキーワードを耳にする機会も多くなってきました。WHO(世界保健機関)によると、「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義されています。従業員のウェルビーイングを維持していくには、彼らの状態を定期的にモニタリングし続け、心身の不調が顕在化する前に、早期の異常発見ができる体制構築が重要になります。そのためにも健康診断は欠かせません。さらに、個人の診断結果の分析を通し、組織全体としての健康状態を把握しておくことは、企業が健康経営に向けた各種施策を進めるためにも、大切な指標となります。
さらに、経済産業省では「健康経営優良法人認定制度」を推進するなど、健康経営企業の社会的評価を上げる取り組みもスタート。その認定要件の1つには、健康診断(定期健康診断)の受診率100%であることが設定されており、「健康経営」を掲げる企業にとっては不可欠となっています。
健康診断の結果が出たら…企業が対応すべき3つのこと

さて、従業員に健康診断を受診してもらった上で、企業側にはさらにどのような対応が必要になるのでしょうか。
①健診結果の通知と5年保管が必須
まず、企業は従業員に対して、異常の有無にかかわらず健康診断の結果を通知することが義務づけられており、さらに従業員の健康診断結果を5年間保管しなければなりません。これらの保管には従業員の同意が必要となるため、厚生労働省によると、健康情報等の取り扱いについての規定はあらかじめ就業規則に明記しておくのが望ましいとされています。
②労働基準監督署へ実施報告書を提出
次に、企業が50名以上の従業員を雇用していた場合、その企業は所轄労働基準監督署へ実施報告書(健康診断結果)を提出しなければなりません。提出用の書類は厚生労働省サイトでダウンロードできます。また50名未満の企業であっても、健康診断の実施については義務化されているので、注意が必要です。
③適切な事後措置の実施
そして、健康診断結果で異常が見られる従業員については、企業は就業上の措置について医師の意見を聞くことも義務付けられています。産業医がいる企業では産業医が健康診断結果をチェックしますが、産業医がいない企業では、地域の産業保健センターなどで確認してもらうことができます。診断結果のみでは情報が不十分な場合は、従業員との面談を設けることも必要です。医師は健康診断結果のチェックを通し、異常のある労働者に対して追加検査や治療の必要性、労働環境の見直しなどについての意見を企業側や本人に伝えます。
その後、企業は医師の意見を勘案し、必要に応じて就業場所や作業内容の変換、労働時間の短縮などについて最終的な事後措置を決定して実施することとなります。この場合、最終的な決定は企業が行うこととなりますが、もしも医師の意見や勧告を尊重せず、労働者の健康が悪化した場合には「安全配慮義務」違反となる場合もあるので、適切な措置については十分な検討が必要となるでしょう。
健康への意識が高まる今日の社会にとって、定期的な「健康診断」の意義もまた、単なる健康管理から、業績アップや個人の健康状態の向上へと変わってきています。何より、国内の人口減少によって企業の人的資本が重要度を増す現在においては、企業の業績に直結する従業員の健康状態を常に把握し、対応を講じておくことは、ほんとうの意味での「健康経営」に向けた最重要タスクのひとつとなってきます。まずはここから見直してみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
- 労働安全衛生法に基づく健康診断の概要 - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/01/dl/s0119-4h.pdf
- 世界保健機関(WHO)憲章とは | 公益社団法人 日本WHO
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/

健康経営/産業保健コラムシリーズ
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