健康経営を効果的に推進するために、まず目指したい具体的な施策内容

企業の健康経営においてその効果を最大化するには、自社・従業員の現状を把握した上で健康課題を見極め、その解決方法を具体的に計画・実行していく必要があります。とはいえ、新たに健康経営を始めるにあたってはどのような施策が効果的なのか、その判断を難しく感じてしまうことも少なくないでしょう。今回は、健康経営の推進に役立つ具体的な施策の参考事例を紹介します。
定期健康診断における受診率の100%を目指す

企業が自社で勤務する労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならないことは、「労働安全衛生法」の第66条によって定められている法的な義務となっています。また同法には、もう一方の労働者側にも企業が行う健康診断を受診する義務を課しています。しかし現実には、実施・受診を実現できていない企業も少なくありません。
健康診断を受診することは健康経営における最も基本的な取り組み。従業員の診断結果を分析し、組織全体の健康状態を把握することは、企業が健康経営に向けた各種施策を進めるための大切な指標となります。合わせて健康診断結果のデータ化を進めておくと、その後の施策策定や評価のタイミングで活用しやすくなるのでおすすめです。
さらに、健康診断の受診率を100%にすることは、経済産業省が進める「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」認定のための要件として設定されています。認定を受け、社内外に健康経営企業として姿勢をアピールするためには、まずは健康診断を確実に実施し、従業員へも受診を促すことが大切です。
不調の早期発見のためにストレスチェックを実施する
従業員50人以上の企業に対しては、全従業員を対象にしたストレスチェックを年1回実施することが義務づけられています。ストレスチェックとは、質問用紙や回答フォームを通して従業員がストレスに関する質問に選択回答することで、企業が従業員のストレスの程度を把握するためのものです。
ストレスチェックの結果は企業が従業員に直接通知し、高ストレス者と判定された従業員が医師による面接指導を希望する場合には、企業が医師との面接指導を調整します。ストレスチェックは従業員本人に自らのストレス状態への気づきを促し、メンタル不調による休職や離職を未然に防ぐことを目的としています。
従業員50人未満の企業には、ストレスチェックの実施とストレスチェックにもとづく医師からの指導をサポートする「ストレスチェック助成金」という制度もあるので、小規模事業者は活用を検討してみるのもよいでしょう。
従業員の健康意識を高めるためのセミナーやイベントを実施する

いくら健康経営への施策を計画しても、当事者である従業員の意識改革なしには改善が進んでいきません。とはいえ「健康に気をつけよう」と、企業が一方的にメッセージするだけでは従業員の健康意識はなかなか醸成されにくいもの。そこで、健康情報を伝えるセミナーや実践するためのイベントを実施し、従業員が具体的に自分の健康向上に対するモチベーションを高めるための仕掛けが重要になります。
たとえば、産業医などに健康維持や体力回復の方法などを解説してもらうセミナーであれば、専門家による信頼性の高いアドバイスを従業員も受け入れやすくなります。セミナー後には、スポーツイベントなど実践の場を設ける施策も合わせて実施できると尚よいでしょう。
また、リアルなセミナーやイベント以外にも、eラーニングの受講環境を整えたり、健康関連のスマートフォンアプリを採用したりするなど、オンラインサービスを活用していくのも効果的です。
労働時間や休暇日数を見直し、過重労働防止に向けた数値目標を設定する
長時間の残業が続いたり、休日出勤の頻度の高かったりといった激務は、従業員の心身不調につながる大きな原因の一つになります。従業員の労働状況については積極的な把握に努め、「ノー残業デーを設定する」「休暇日数を増やす」「残業時間が多い従業員には産業医との面談を推奨する」など、ワークライフバランスを維持できる働き方をサポートすることが重要です。またその際には「毎月最終営業日をノー残業デーに決める」「有給休暇を5日以上取得できるようにする」など、具体的な数値目標を設定して取り組むことも大切です。
心身不調の従業員に対して治療と業務の両立を支援できる体制を整える
メンタルの不調は本人も気づかないうちに進行し、仕事の質や生産性に大きな影響を及ぼします。従業員が精神的に追い込まれないような環境づくりに努めるとともに、不調者が出た場合に備えて社内制度を整えましょう。そのためには、医療関係者との面談の場を設けたり、勤務時間や業務内容に配慮したりして、無理のない回復をサポートすることが大切です。
健康経営を実践していても、従業員の心身の不調を完全にゼロにするのは不可能です。不調を防ぐ環境づくりと合わせ、病気の治療が必要な従業員が出た場合には、治療と仕事が両立できる体制も整えておくことも重要です。
医療関係者との面談設定や、傷病休暇を通院に利用できるようにする、勤務時間や業務内容に配慮して柔軟に対応するなど、無理のない回復をサポートする体制づくりに努めましょう。
望ましい健康経営のカタチは、企業の規模や事業内容によってもさまざまに異なります。今回取り上げた施策事例をベースに、それぞれの会社らしい健康経営を推進するための施策を検討してみてください。
<参考URL>
- 「健康経営銘柄2022選定及び健康経営優良法人2022(大規模法人部門)認定要件」|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/daikibo2022_ninteiyoken.pdf
- 「ストレスチェックサービス ストレスチェック制度とは?」|中央労働災害防止協会
https://www.jisha.or.jp/stress-check/about.html

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