より経営と健康の関係性が重要に!2024年度健康経営顕彰制度4つの改革点に注目

2023年7月18日に経済産業省の主催で第9回健康投資ワーキンググループ会合が開催されました。この会合では、2024年度の健康経営優良法人認定制度及び健康経営銘柄の設計変更や政策の策定・実施に関する議論が行われました。
会合で深く議論されたのは今後の健康経営の目指すべき姿についてです。特に、健康経営の可視化と質の向上、新たなマーケットの創出、健康経営の社会への浸透・定着について意見の交換が行われました。
また、それらの方針を踏まえて、健康経営優良法人やホワイト500/ブライト500、健康経営銘柄などを認定する基礎情報となる健康経営度調査票へ「情報開示の促進」「社会課題への対応」「健康経営の国際展開」「取組法人の裾野拡大」の4点で改訂を行うことが議論されました。特に情報開示の促進では大規模のみになりますが、業務パフォーマンス指標の開示が追加され、より健康と経営の関連性を明確にすることが求められるようになっています。
この記事で学べること
- 2023年8月21日から始まった健康経営度調査票の改正ポイントがわかる
- どういった理由で改正されたのか、背景が理解できる
- 健康経営を導入した企業がどんなメリットを得ているのかがわかる
- 今後の日本の健康経営の方向性が見える
日本における健康経営の今後について、2023年7月18日に経済産業省の主催で開催された健康投資ワーキンググループ第9回会合で話し合いが行われました。これを受けて、8月21日から配布されはじめた健康経営優良法人認定制度及び健康経営銘柄における法人の健康経営の取組状況と経年での変化を分析するための基礎情報となる「健康経営度調査票」が改訂されています。
果たしてどんな点が盛り込まれたのでしょうか。経済産業省が公開している資料を元に解説していきます。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/009_02_00.pdf
これからの健康経営の進むべき道が決定!
今回開催されたワーキンググループでは「今年度の健康経営優良法人認定制度及び健康経営銘柄の設計等について」をテーマに議論が進められました。
健康経営優良法人認定制度は、2016年からスタートし、これまでは経済産業省が中心となって普及が進められていましたが、2023年度からは民間業者の創意工夫を活かした運営を行うために、補助事業として日経新聞社に委託する形で進められています。
今年度は、サービス向上やより実質的な健康経営を進めていくために「情報開示の促進」「社会課題への対応」「健康経営の国際展開」「取組法人の裾野拡大」の4つの視点を中心に調査票の改訂が議論されました。
また、今後の健康経営の目指すべき姿についても議論されました。特に今後広がりを見せるであろう中小企業に向けた施策などについても重点的に話されています。順番は前後しますが、まずは今後の健康経営の目指すべき姿についてご紹介します。
成果の可視化と市場拡大の2本柱で日本経済社会を支える基盤へ
2014年度の健康経営銘柄選定から始まり、2016年度には顕彰制度として健康経営優良法人認定制度が設立されて8年。健康経営優良法人認定制度申請法人は17,570にまで拡大しており、社会基盤の一つとして認識されるまでの規模になっています。加えて、2022年度には日経平均株価を構成する225社のうち、85%が健康経営度調査に回答、認定法人で働く従業員数が837万人と日本の被雇用者の15%になるなど、名実ともに広がりを見せています。
これら申請法人に対し、施策の実践によって企業や従業員にどのような効果があったのか、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントが健康経営度調査のデータを分析した結果、健康経営で上位の認定を受けている企業ほど、ワークエンゲイジメントが高い傾向や、高ストレス者割合が優位に少ない結果が見られたとしています。また、ワーキンググループ資料に使用された株式会社バックテックの調査では健康経営に6年以上取り組んでいる企業において、従業員のプレゼンティーズムが下がり、生産性が向上している傾向が見られるとしています。
これらを踏まえて、ワーキンググループでは、①健康経営の効果分析と適切な指標を検討することで、健康経営の可視化と室の向上を図っていくこと。②健康経営を支える各種サービスを中心とした産業の創出と国際展開をを推進していくこと。③社会への浸透・定着を狙い裾野を広げるために、日本企業の大半を占める中小企業へのインセンティブ等を用いた普及拡大、認定制度の完全民営化の3点を目指していく方向で議論が進みました。
これらを踏まえる形で提案されたのが、「情報開示の促進」「社会課題への対応」「健康経営の国際展開」「取組法人の裾野拡大」に対しての改定案です。それぞれ見ていきましょう。
「情報開示の促進」業務パフォーマンスとの関係性が争点に
情報開示の推進における大きな変更点は大規模企業に対しての「特定健診・保健指導の実施率の評価」と「業務パフォーマンス指標の開示」、「労働安全衛生に関する開示」の3点になります。
特定健診・保健指導の実施率の評価
特定健診・特定保健指導の実施率の評価は、企業と保険者の連携ですすめるコラボヘルスの推進のため、企業ごとの特定健診・特定保健指導の実施率を公開する方針になります。厚労省は特定健診の実施率70%、特定保健指導の実施率45%を掲げていますが、実施率は大幅に下回る状況が続いています。
今後の提出に関しては、昨年11月に国へ法定報告した「2021年度特定健診・保健指導実施率データ」を使用するため1年間のタイムラグが生じることが前提になります。
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業務パフォーマンス指標の開示
次いで取り入れられたのが、健康経営の効果指標として現在最も有効と考えられる「業務パフォーマンス指標の開示」になります。すでに2023年度の調査において、一定数の企業が開示に取り組んでいる状況が明らかになっており、本年度である2024年度から大規模法人に関しては「業務パフォーマンス指標とその測定方法」を開示していることを評価対象とし、ホワイト500に関しては認定要件となることになりました。くわえて、測定範囲・回答率についても開示状況の確認を行うことで、より正確な数値が必要となることになりました。来年度以降は複数年度分の測定結果の開示が加えられ、分析に活かされていく可能性が示唆されています。
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労働安全衛生に関する開示
国際的な開示基準の動向などを踏まえ、より基礎・土台となる労働安全衛生・リスクマネジメントの開示状況についても問われることになりました。これまでの健康経営の推進目的・体制の状況だけでなく、より幅広い観点での開示が必要になったわけです。また、今年度は開示のみを問われますが、次年度以降は、労働安全衛生の具体的開示内容や指標について精査した上で必須条件とすることも検討されます。
この流れは2023年1月31日に一部改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」により、3月期決算から人的資本情報開示が義務化されたことが背景にあります。そこでは「エンゲージメント」、「健康・安全」など7分野19項目に関して投資家を始めとするステークホルダーに対して開示することが望ましいとされています。
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「社会課題への対応」介護・女性を中心に、特定疾患を追加
少子高齢化社会を主な原因とする人材不足を始めとした社会課題の解決に向けては、大規模、中小規模問わず様々な設問が新設されています。今回は男女の働き方への対応として「仕事と育児・介護の両立支援」と「女性特有の健康課題」のほか、「生産性低下防止のための取組」、「新型コロナウイルス感染症への対応」を加えた4点に関して追加されています。
仕事と育児・介護の両立支援
少子化対策としての育児と、高齢化対策としての介護をそれぞれ新設し、ライフスタイルと仕事とのバランスをいかに取っていくかを重視した内容となっています。具体的には、適切な働き方の実現を目指すために、柔軟な勤務制度の導入や、男性育休の原則義務化、育児費用への金銭的補助などについて設置しています。これらは実施の有無に加え、評価には用いませんが、定量数値化も行うことで実態を把握していく内容になっています。
ただし、両立支援に関しては、大規模においては認定要件となりますが、中小規模に関してはアンケートによる現状の把握がメインとなりました。
また、不妊治療に対する支援については女性に限定されない問題であるため、女性特有の健康課題からこちらへ、選択肢が移動されているのも特徴です。
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女性特有の健康課題
女性にはライフステージに合わせて様々な健康課題が存在していますが、これらの課題に対してしっかりと取り組む企業を増やしていくため、関連施策への参加状況の開示有無を評価の対象とすることとなりました。今まで選択必須項目としていた「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」を女性の健康課題に関する認知向上のための取組状況を 問う設問(Q56)及び行動変容促進の取組を問う設問(Q57)とし、両設問の回答を持って認定要件となることが決まっています。
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生産性低下防止のための取組
令和5年5月「花粉症に関する関係閣僚会議」で「花粉症対策の全体像」がとりまとめられ、 その中で企業における従業員の花粉曝露対策が求められたことを背景に、本年度から「花粉症に対する具体的な支援」が追加されています。対処療法だけでなく、舌下免疫療法など根治治療に対する補助・支援が盛り込まれるなど、細かい部分まで問われる内容となっています。
さらに具体的な疾患として「眼精疲労に対する具体的な支援」も追加されました。こちらはオフィスだけでなくテレワークなどの環境に対しても整備を行っているかが問われます。
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新型コロナウイルス感染症への対応
2020年から日本国内でも猛威を振るった新型コロナウイルス感染症については、今までは個別に行った対策を記載する方式でしたが、5類感染症への移行を踏まえて、インフルエンザや麻しん、風しんなど他の感染症も含めた形での対策を応える形に統合されます。なお、本年度に関しては、5類移行後の企業の対応策の変化について把握するため、評価には用いずに、アンケート項目として問われる形になります。
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「健康経営の国際展開」国際化に向けて海外駐在員や現地社員にも適用を検討
国内での健康経営取組事例が拡大するにつれて、健康経営の各種サービス市場も拡大を続けています。これに合わせ、日本式健康経営の世界展開・国際標準化の検討のため、評価には用いられませんが、海外駐在員や現地法人で雇用された社員の健康増進、健康課題への対応等が問われることになりました。現地に特化したユニークな取組を募集するなど、今までにない設問となっています。
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「取組法人の裾野拡大」中小企業への普及をスピードアップ
日本の産業を支える中小企業ですが、健康経営の取組状況としてはまだまだ進んでいません。そこで裾の拡大を目指すとともに、先行企業の実例を参考としてもらうために、まずは配点を行っているブライト500申請法人について結果のフィードバックが行われることとなります。来年度以降に関しては、中小規模の申請法人全体に対してフィードバックの実施を検討していきます。
また、ブライト500の世間的な価値の向上や認知度の向上のため、優秀な取組をしている法人への顕彰や公表制度も検討が開始されました。点数の急上昇や業種別に順位が高い法人を中心に露出が増える方向で検討されています。
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従業員の健康と会社の経営状況、双方を高める本質的な健康経営へ
今回は日本式健康経営が始まって9年目を迎え、大きく質を問われる内容へと変化してきています。特に評価の軸が施策実施の有無ベースから、従業員の健康状態の変化や経営へのインパクトの状況など、より数値化や効果検証が重視される内容となっています。
これは、健康経営が次の段階に入った証拠でしょう。
今後は数値の検証や、分析を元にした施策の実行状況などより経営改善につながる方向へとシフトが続いていき、健康経営の重要性が高まっていきます。
これから取り組む企業にとっては、先行企業が苦戦したデータ化や分析などをスムーズに行える仕組みの導入が第一歩となってくるでしょう。

健康経営/産業保健コラムシリーズ
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