従業員の不調をどう防ぐ?メンタルヘルスをケアできる社内施策を紹介

健康経営を推進する上で欠かせない、従業員のメンタルヘルスケア。近年、産業構造の変化や新型コロナウイルスの流行によって労働者の働き方は大きく変化しました。そうした変化に戸惑う労働者のメンタルヘルスについても関心が高まると同時に、メンタルヘルスケアの重要性についても盛んに語られるようになっています。今回は、従業員のメンタルヘルスに不調が起こる原因や、その対策としての社内施策について紹介していきます。
健康経営にとって、従業員のメンタルヘルスケアは基本中の基本

厚生労働省によると、メンタルヘルスの不調とは「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう」と定義されています。うつ病や適応障害などの精神疾患だけでなく、強いストレスや悩み、不安感というような病名がつかない精神状態もメンタルヘルスの不調に含まれており、つまりメンタルヘルスとは、心の健康状態を広く指す言葉なのです。
もちろん従業員のメンタルヘルスは、健康経営の観点からも大きな意味を持っています。従業員の生産性とメンタルヘルスは密接に関連しているからです。メンタルヘルスが不調になると、集中力や判断力のほか、仕事へのモチベーションも低下します。こうしたメンタルヘルスの不調者が増えてしまうと、組織全体の活力も失われることなり、生産性が低下してしまうというわけです。
厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、職場や仕事で不安やストレスを感じたことがある労働者の割合は54.2%。つまり、5割以上の労働者がメンタルヘルスの不調による休職や離職、生産性の低下のリスクを抱えており、それは企業の労働力不足や業績低下リスクにもつながることになるのです。
なぜ起こる? 従業員のメンタルヘルス不調を引き起こす要因
メンタルヘルスの不調は、よく言われるような、気が弱くてプレッシャーを受けやすい傾向にある人だけに起こるわけではありません。ストレス耐性による程度の差こそあれ、誰でも日常のさまざまな出来事をきっかけとして、いつの間にかストレスが引き起こされる可能性があるのです。その原因は「内因性」と「外因性」に分けられます。
まず「内因性」とは、本人の心にある不安、おそれ、無力感といった感情が原因になることを指します。私的要因とも呼ばれ、家族関係のこじれや人間関係のトラブル、金銭問題、大切な人の病気、住環境や生活の変化などが挙げられます。
これらの要因は、企業が把握したり、関わったりすることが難しいので、本人が自分で対処できない場合は、友人や家族などの親しい人や、産業医やカウンセラーなどの専門家に相談する必要があるでしょう。
一方「外因性」は、昇進や昇格・配置転換などによる役割・地位の変化、上司や部下との対立・パワハラ・セクハラなど職場での人間関係のトラブル、長時間労働や人事異動などによる仕事の質・量の問題など、本人が意図しない外的な要因を指します。
外因性のメンタルヘルス不調は、原因を特定して改善を図れば解消が期待できます。ただ、職場要因が大きく影響し、仕事の量や内容、職場の人間関係など、自分ではコントロールしにくいケースも少なくありません。上司や産業医に早めの相談をするとよいでしょう。
企業で取り組みたいメンタルヘルスケアの施策とは

個人のストレス耐性や職場環境によっても異なるメンタルヘルスのケア施策。そもそも色々な選択肢があるなかで何に取り組むべきか……悩ましく思う人事や総務のご担当者も多いのではないでしょうか。今回は、厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(改正)において有効な取り組みとして推奨している施策を紹介します。
ストレスチェックの実施
ストレスチェックは、アンケートの実施のみならず、結果にもとづいた面談指導の実施、集計・分析を含めた一連の取り組みを指します。労働者のストレスレベルを判定するアンケートは、実施することよって労働者自身のストレスに気づきを促し、メンタルヘルス不調の予防や、労働者自身によるストレスケアにつながります。また、職場全体のデータを分析して労働環境の改善に役立てることも可能です。
産業医との連携
産業医の選任は、労働安全衛生法により、従業員50人以上の事業場に義務づけられています。産業医には健康診断結果への助言、長時間労働者の面接指導やストレスチェックの実施、適切な医療機関の紹介や休職者の復職判断など、従業員の心身の健康をサポートしてもらうことができるので、こうした専門スタッフとの連携も効果的です。
従業員支援プログラム(EAP)の利用
従業員支援プログラム(EAP:Employee Assistance Program)は、企業のメンタルヘルスケアをサポートするサービスの総称。そのなかでも企業と連携して対策を行う外部サービスは「外部EAP」と呼ばれます。外部EAPはストレスチェックの実施や復職支援プログラムなどの幅広い専門サービスを提供しているので、自社で採用すればメンタルヘルスケアの推進に役立ちます。
ストレスマネジメント研修の実施
メンタルヘルスの重要性や基礎知識を従業員や監督者に研修を実施して教育することで、意識向上やメンタルヘルス不調の予防につなげることができます。セミナーの開催以外にも、リーフレットやDVD、e-ラーニングなどの各種媒体でもできるので、小規模事業所でも導入しやすいといえます。外部サービスも多いので、アウトソーシングしてもよいでしょう。
他にも、従業員のメンタルヘルスケアには、福利厚生にメンタルヘルスケアサービスを導入するのも有効な手段です。従業員のメンタルヘルスを定期的に確認し、不調を事前に察知できるよう、うまく活用してみてもいいかもしれません。
<参考URL>
- 労働者の心の健康の保持増進のための指針|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/060331-2.pdf - 令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r02-46-50_gaikyo.pdf - 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf - 健康経営 と メンタルヘルス 厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001293867.pdf

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